ロールキャベツ系ピアニスト③

②はこちら↓

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「え、お前、そっちなの?」

 

会うの2回目にして「お前」呼ばわりする私もだいぶヤバいが、つい本音が漏れた。

 

「いや、ごめん。言うだけ言ってみただけ。だってTinderだし」

 

だってTinderだし。

 

私は、アプリによって明確に目的を変えるセクシーダイナマイトを思い出していた。(以下参照)

 

noriko-uwotani.hatenablog.com

 

たかがTinder。

 

でも、されどTinderなのだ。

 

私はこの場所を通して、うつ病の子を救ったり、誰かを好きになったり、小説を書いたり、してきたのだ。

 

「そういうのしない主義だから。帰ろっか」

 

「ごめん待って。無理なら無理でいいから。普通に話したい」

 

今から友達モードに軌道修正できるかよ。

 

そう思ったが、千秋と話すこと自体は面白く、翌日も休みだったので、時間の無駄とわかっていたがもう1軒行くことにした。

(「楽しんで無駄にした時間は無駄じゃない」ってジョンレノンが言ってたしな)

 

そして2軒目を出て、終電手前の帰路。

 

千秋は遠回りをして私と同じ路線で帰ると言ったので、一緒に地下鉄に乗った。

 

ガラガラの車内で横並びに座り、私はふと気になったことを尋ねた。

 

「何で私に会おうと思った?」

 

ヤリモクなら、顔を出してない私に、なぜ興味をもったのか。

今なら本音が聞ける気がした。

 

「チャットの言葉遣いというか、言い回しが独特な人だなって思ったんだよね」

 

嬉しい返しだったが、千秋は全てを台無しにする言葉を続けた。

 

「あと、なんとなくブスとかデブではないだろうって気がした。俺、ブスとデブ以外は抱けるんで」

 

ダイレクトすぎて、笑うしかなかった。

 

彼がストリートピアノの鍵盤に触れ、空を仰いだ数秒。

あの場にいた誰もが、彼をピュアな好青年だと信じていたはずだ。

 

実態は「ブスとデブ以外は抱ける」と豪語するクズでした。

ねぇ、あの日あそこにいた皆さん。

見てる?

 

「付き合う人はどう?見た目のこだわりある?」

 

「ちゃんと付き合う人なら、なおさら見た目はどうでもいいかな」

 

千秋がそう即答したもので、私は感心した。

やっぱり彼は世界の論理ではなく、自分の感性を大事に生きているのだろう。

 

「そういえば、さっき話した婚約してた元カノ。大学で美術の研究してて、編集者だったんだよね」

 

「へぇ。私みたい」

 

昔の恋人と属性が近い人を見ると、私も気になるので気持ちはわかる。

 

しかしここで、一つ疑問が生じる。

 

見た目がどうでもいいのなら、その子にあって私にないものは、何だったのだろう。

本命枠ではなく、「言うだけ言ってみた」とホテルを打診される私とその子は、何が違ったのだろう。

 

感性に刺さらなかったと、片付けるしかないのか。

 

私が先に電車を降りると、千秋からLINEがきた。

 

<今日はありがとう。たくさん話せて楽しかったよ!また連絡するね>

 

翌日、またLINEがきた。

 

<昨日、帰りの電車で海苔子さんが引き合いに出してた言葉、何だっけ?いいなと思ったのに忘れちゃって>

 

私は何かの本から引用した言葉を、そのまま打ち込んで返信した。

 

<それだ!ありがとう>

 

千秋に刺さる言葉を、きっと私はそれなりに提供できると思う。

 

だけどそれは、これまで溜め込んできた知識の断片でしかなく、私という存在が刺さっているわけでは決してないのだ。

 

切ねぇ。

 

とこのブログを終わらせようとして、タイトルの説明をしてないことに気づいた。

 

「草食系に見えて実は肉食系」の男を、ロールキャベツ系男子と呼ぶらしい。

 

悲しいかな、綺麗に巻かれたロールキャベツの中身は、切ってみないとわからない。

 

<終>