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「え、お前、そっちなの?」
会うの2回目にして「お前」呼ばわりする私もだいぶヤバいが、つい本音が漏れた。
「いや、ごめん。言うだけ言ってみただけ。だってTinderだし」
だってTinderだし。
私は、アプリによって明確に目的を変えるセクシーダイナマイトを思い出していた。(以下参照)
たかがTinder。
でも、されどTinderなのだ。
私はこの場所を通して、うつ病の子を救ったり、誰かを好きになったり、小説を書いたり、してきたのだ。
「そういうのしない主義だから。帰ろっか」
「ごめん待って。無理なら無理でいいから。普通に話したい」
今から友達モードに軌道修正できるかよ。
そう思ったが、千秋と話すこと自体は面白く、翌日も休みだったので、時間の無駄とわかっていたがもう1軒行くことにした。
(「楽しんで無駄にした時間は無駄じゃない」ってジョンレノンが言ってたしな)
そして2軒目を出て、終電手前の帰路。
千秋は遠回りをして私と同じ路線で帰ると言ったので、一緒に地下鉄に乗った。
ガラガラの車内で横並びに座り、私はふと気になったことを尋ねた。
「何で私に会おうと思った?」
ヤリモクなら、顔を出してない私に、なぜ興味をもったのか。
今なら本音が聞ける気がした。
「チャットの言葉遣いというか、言い回しが独特な人だなって思ったんだよね」
嬉しい返しだったが、千秋は全てを台無しにする言葉を続けた。
「あと、なんとなくブスとかデブではないだろうって気がした。俺、ブスとデブ以外は抱けるんで」
ダイレクトすぎて、笑うしかなかった。
彼がストリートピアノの鍵盤に触れ、空を仰いだ数秒。
あの場にいた誰もが、彼をピュアな好青年だと信じていたはずだ。
実態は「ブスとデブ以外は抱ける」と豪語するクズでした。
ねぇ、あの日あそこにいた皆さん。
見てる?
「付き合う人はどう?見た目のこだわりある?」
「ちゃんと付き合う人なら、なおさら見た目はどうでもいいかな」
千秋がそう即答したもので、私は感心した。
やっぱり彼は世界の論理ではなく、自分の感性を大事に生きているのだろう。
「そういえば、さっき話した婚約してた元カノ。大学で美術の研究してて、編集者だったんだよね」
「へぇ。私みたい」
昔の恋人と属性が近い人を見ると、私も気になるので気持ちはわかる。
しかしここで、一つ疑問が生じる。
見た目がどうでもいいのなら、その子にあって私にないものは、何だったのだろう。
本命枠ではなく、「言うだけ言ってみた」とホテルを打診される私とその子は、何が違ったのだろう。
感性に刺さらなかったと、片付けるしかないのか。
私が先に電車を降りると、千秋からLINEがきた。
<今日はありがとう。たくさん話せて楽しかったよ!また連絡するね>
翌日、またLINEがきた。
<昨日、帰りの電車で海苔子さんが引き合いに出してた言葉、何だっけ?いいなと思ったのに忘れちゃって>
私は何かの本から引用した言葉を、そのまま打ち込んで返信した。
<それだ!ありがとう>
千秋に刺さる言葉を、きっと私はそれなりに提供できると思う。
だけどそれは、これまで溜め込んできた知識の断片でしかなく、私という存在が刺さっているわけでは決してないのだ。
切ねぇ。
とこのブログを終わらせようとして、タイトルの説明をしてないことに気づいた。
「草食系に見えて実は肉食系」の男を、ロールキャベツ系男子と呼ぶらしい。
悲しいかな、綺麗に巻かれたロールキャベツの中身は、切ってみないとわからない。
<終>