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結局、私は仁を家に入れて、睡魔の限界まで喋り続けた。
「気持ちが入ってしまうから、同じ人とは2回以上会わない」と宣言している彼と、もう二度と会うことはないのだと思うと、いま全部聞かなきゃと焦るような気持ちになった。
私もまた、狂っているのだった。
空が明るみだした頃、眠くなり布団に入った。
案の定、添い寝で終わるなんてことはなかったが、私は未知なる彼の人格を掘れるだけ掘り切ったことに、妙な満足感を得ていた。
翌日の別れ際。
私は確認のために尋ねた。
「もう会わないんだよね?」
「うん。でも俺、海苔子さんのことは忘れないと思うよ」
いらないエモさに支配された私は、彼に本心で言った。
「お互い幸せになろうな」
「うん。1年後の今日、海苔子さんに進捗確認のLINEを送るね。Googleカレンダーに入れとくから。本当に送るから、ブロックしないでよ」
「わかった。ちなみに、SNSとかやってる?」
聞くと、ハプバー界隈の人とだけ繋がっているというTwitterの鍵アカを見せてくれた。
私が普段使ってない捨てアカでフォローリクエストを送ると、彼はあっさりと承認したので、その場でざっとツイートを見た。
私とロック座に行くことが決まった日、彼はこうつぶやいていた。
<話してる感じ素敵なコミュニケーションが取れる文学Tin女と、浅草のロック座行くことになった。抱けるかなぁ>
どこまでも正直な人で、笑ってしまった。
私はブログのことは言わなかったが、「きみのこと題材にして何か書いていい?」と聞くと、彼は「書いて!」と即答した。
久しぶりに、ちゃんと小説を書こうと思った。
「海苔子さんはたくさん趣味があっていいなぁ。俺、生まれ変わってもまた自分になって、性欲だけは取ってもらって、別の何かに熱中したい」
数週間後。
私はこれを書きながら、彼のTwitterを久々に覗いた。
マッチングアプリから完全に足を洗い、あり余る性欲と闘いながら「普通」になろうともがく彼の日々を確認しながら、タイムラインを遡った。
すると、私に会った翌日のツイートに辿り着いた。
<昨日会った人、「何で?」「どうして?」と言ったことを深掘ってくれる、聞く力のすごい人だった。そういう人と話してると、自分がフワフワ考えてることに輪郭が与えられるきっかけになっていいよなぁ>
なぜだろうか。
短い夜を生きるストリッパーに胸を打たれたあの瞬間みたいに、私は少し、泣きそうになった。
(終)