10年来の友人と結婚する世界線の話⑨

何食わぬ顔で待ち合わせ場所に向かい、乾杯してすぐ、私はぶっ込んだ。

 

「あのさ、マッチングアプリとかやってる?」

 

「え?笑 なに急に。やってないよ」

 

「じゃあ何でLINEの名前変えたの?」

 

「あー…別に理由はないよ。なんとなく」

 

「怪しすぎる」

 

「いや本当だって。訓練中、海外で同期がやってるの見て面白そうだなーとは思ってたけど」

 

「あ、分かった。パイロットって地方に泊まること多いじゃん?現地で引っかけた女の子に本名知られて、会社名バレると都合が悪いからだ?」

 

「探偵かよ笑 そんなに遊んでないし」

 

「いや絶対そうじゃん!」

 

こんなやりとりをしばらく続けたが、結局タクヤは理由を教えてくれなかった。

 

しかしこの日。

恋愛の話を不自然に避けてきた私たちが、初めて片足だけ突っ込めたような、そんな感覚があった。

 

12月の寒い夜だった。

 

飛行機は季節風の影響を受けるため、同じ区間でも夏と冬では飛行時間が変わる。

パイロットはそれで季節の変化を感じるのだと、私はこの日、タクヤに教わった。

 

年末に差し掛かった頃。

仕事を納めて年末年始休暇に入った私は、翌日からの帰省の荷造りを終えて、暇を持て余していた。

 

空白の時間にふと、タクヤのことを思い出した。

 

アプリはやってない。

でも、本名を知られると都合が悪い。

 

つまり、検索されると困るものが、ネットに出ている…?

 

なんとなくスマホFacebookを開き、タクヤの名前を打ち込んだ。

 

私たちはFacebook上の友達ではなかったが、お互いFacebookをやっているということは知っていて、私はその昔、彼のプロフィールをこっそり見たことがあった。

 

投稿しない主義なのか、友達だけ公開の設定にしているのかわからないが、その時のタイムラインがほとんど空っぽだったことを覚えていた。

 

見覚えのあるプロフィール写真を、タップする。

 

タクヤのプロフィールに飛ぶと、タイムラインの一番上に、新しい投稿が見えた。

 

<11月◯日、XXXXさんと入籍しました。>

 

絶句した。

 

添付された写真の、タクヤの隣には私の知らない女性がいて、二人揃って薬指に指輪を嵌めた左手の甲をカメラに向けていた。

 

え…?先月…?

何で?

10月も12月も会ったよね?

その間に結婚してたの?

何で?

何で何も言わなかったの?

 

私を友達と思っていたなら、何で教えてくれなかったの?

あなたにとって私は、何だったの…?

 

殴られたような衝撃が走り、頭が熱かった。

 

夢であってくれ。

いま目に映るこの景色が、どうか全部夢であってくれ。

 

そう祈りながら、ご丁寧にタグ付けされたタクヤの妻のプロフィールに飛んだ。

プロフィールを見る限りはあまり特徴のない女性で、私はますます分からなくなった。

 

何で?

え、何でよ。

 

続く。