ロビーに設置されたソファーに、彼はいた。 30代後半くらいだろうか。 身長165センチくらいの小さいおじさんだった。 Tinderに出てきたら秒で左スワイプするだろうが、しかしそれでも、私は直観した。 多分この人、信じて大丈夫だ。 さっそく二人で、地…
メッセージの送り主のアイコンをタップすると、私と同じように飯の写真だけをアップしているアカウントが現れた。 アイコンの写真が遠目の本人で、遠目すぎて顔はよく分からないが、どうやら中国人男性のようだ。 アップされている写真は、なぜか東京の店が…
久しぶりに編集部時代の後輩に再会したところ話が盛り上がり、12月に香港に行こう、と飛行機やホテルを手配したのが9月末のことだった。 まさか日中関係がこんなに悪化するとは夢にも思わず、毎日メールを開くたび、飛行機の欠航通知が来ているのはないか…
インスタに、また新しいサービスの広告が流れてきた。 男女2対2の合コンがセッティングされるサービス、The 4。 今のところ会場は恵比寿のみだが、行ける日時を選択するだけでメンバーのマッチングから店の予約まで勝手にしてくれるという。 アプリではな…
<え、大丈夫?どうしたの?> 私がそう尋ねると、 <風邪をこじらせて、X月X日から3週間入院してた。死ぬかと思った> と返ってきた。 詳細は会って話すと言われたので、私たちは予定を合わせ、再び平日の昼に待ち合わせた。 現れた宮川は、相変わらずガタ…
昨年の9月に転職をした私は、以前より仕事が忙しくなった。 取引先が多く、日々新しい人に出会い200枚の名刺があっという間に消えていくような環境で、大きな心境の変化があった。 週末に、知らない人に会いにいく元気がない。 平日が刺激的すぎるから、…
Instagramの広告は「あなたこれ欲しいんでしょ?」と言わんばかりに、衣類や化粧品や整形やAI英会話レッスンやマッチングアプリや相席居酒屋や卵子凍結やマンション購入や、挙げ句の果てにはソロウェディング写真などを勧めてくる。(ソロウェディングって何…
このブログを書き始めた2021年の終わりから、気づけば3年も過ぎた。 過去に会った人のことを書き終えたら多分1年くらいで終わるから、そこでやめようと思っていたのに、信じられないことに私は未だTinderをぶん回している。 アラサーですらなくなって…
それから私と奇人はたまに連絡を取り合うようになった。 彼は気まぐれで、すぐに返ってくることもあれば1週間返ってこないこともあった。 ちょうどその頃、私は転職先の選考が進んでいた。 最終面接が終わり、正式にオファーをもらったと報告すると、500円…
私たちの家はわりと近く、地下鉄で1駅ほどの距離だった。 <仕事が終わり次第連絡してそっち行くから、家で待ってて> ユウタがそう言うので自宅で待っていると、22時近くになってようやく連絡があり、私たちはやや遅すぎる時間にバルで待ち合わせた。 店…
遡ること2022年、夏。 まだコロナが第5類に分類される前のこと。 私は東京にいながら、イスラム共和国に住む日本人男性とマッチした。 名前はユウタ(仮)、29歳(当時)。 プロフィールは英語で、Kyoto Universityという学歴とレッツハングアウトト…
<ご無沙汰しております。リョウの母です。> 冒頭の文章が見えた瞬間、当時の衝撃がフラッシュバックして、手が震えた。 <息子の容体に変化があり、医師の話によると、数ヶ月以内に意識回復が見込めるのではないかとのことです。またご連絡します。> あぁ…
「…はい」 「夜分にすみません。リョウの母です」 年配の女性の声だった。 心臓がうるさい。 スマホが音を拾ってしまいそうだ。 落ち着け。落ち着け。 言い聞かせながら、テーブルに置きっぱなしにしていた話す内容を書いたメモを手繰り寄せた。 自分とリョ…
通知を見た瞬間、心臓がドクンと鳴った。 またも既読をつけないように、そっと中身を開いた。 <今日、息子の部屋を掃除していたら、女性向けのプレゼントが出てきて、海苔子さんの名前が入ったカードが付いてました。どうするべきか迷いましたが、ご連絡さ…
私は既読をつけないように、そっと中の文章を読んだ。 <X月X日に息子が大きな事故に遭い、1ヶ月以上経ったいまも意識が戻らないため、代わりに連絡しました。> 息が止まりそうになった。 事故に遭ったという日付は、ちょうど私が彼に最後のLINEを送った日…
ちょうどその時、スマホが鳴った。 <結局行くのやめた?> 同僚のアユミからのLINEだった。 あぁ神よ。ありがとう。 この新しい真実を、一人で抱えたくなかった。 私はすぐアユミに電話をかけ、状況を説明した。 「とりあえず、今からお茶する?」 アユミと…
翌日も、その次の日も、私がリョウに送ったLINEは未読のままだった。 会う約束をした日の前日。 未読のままのLINEを眺めてどうしようかと思い、毎日のように一緒にお昼を食べていた仲の良い同僚・アユミ(仮)に聞いてみた。 「明日、待ち合わせ時間も場所も…
頼むやめてくれ。 同姓同名の別人であってくれー 祈るような気持ちで、記事の見出しをタップした。 それは、地方裁判所の傍聴を趣味としている人のブログだった。 ----- 被告人:XXXリョウ(24) 平成X年X月X日、交際相手に対する暴行・脅迫の罪で逮捕。 被…
PDFを開くと、ものすごい量の文字が目に飛び込んできた。 それは、私に向けた4000字を超えるラブレターだった。 私に出会う前の絶望と、出会った後の希望と。 顔も服も会話も何もかもが自分のタイプで、あの夜がひどく楽しかったということ。 とにかくも…
リョウが事件について濁したまま話を続けようとしたので、私は喰いついた。 「言いたくないなら言わなくてもいいんだけど、事件って…?」 興味津々だった。 彼は詳細を語ることを躊躇していたが、私が「絶対引かないから」と繰り返すと、諦めたように話し始…
先日、我が人生最大の恋愛話を、X (Twitter)経由でたくさんの人に読んでいただいた。 最終出社日にして、上司(40代男性)に「目の前のマンションに私が落とせなかったパイロットが住んでる」と謎の暴露をしてしまった。我が人生最大の恋愛話、2万字くらい…
早稲田大学卒、マーケター、27歳。 名前は夏目(仮)。 身長が私とほぼ同じで、写真を見る限り顔も特別タイプではなかったが、プロフィール文がユーモアにあふれていて気になった。 <大学時代ラブホでバイトをしていたら、並の性癖では引かなくなりました…
<脚本家兼、小説家です> 黒髪ロン毛で肌が白く、どこか中性的な雰囲気を纏う写真が載っていた。 名前は如月(仮)、32歳。 職業柄さすがに読書は好むようだが、羅列された好きな作家がちょっとミーハーで、小説家が選ぶラインナップがこれ?と意外に思っ…
美大卒、プロダクトデザイナー、39歳。 名前は日村(仮)。 プロフィール文にはこうあった。 <離婚歴がありますが、理由は話せます。結婚を前提にお付き合いできる方を探しています。> Tinder上でミステリアスぶっている私は、芸術系の人に興味をもたれ…
職業ライター、34歳、名前はケンイチ(仮)。 NSCを卒業し舞台に立っていたが芸人を諦め、次に舞台俳優を目指すもそれも諦め、現在はカルチャー系のウェブライターをしているという。 丁寧な文章とその経歴に、興味を惹かれた。 また、プロフィールにはこ…
もう1年以上前になるが、私はTinderで知り合った変態のおかげで、念願のストリップ劇場を体験することができた。 noriko-uwotani.hatenablog.com ※ちなみに後日談だが、この記事は公開してすぐ変態ご本人に見つかってしまい、なぜか「嬉しくて泣きそう」と…
本当はひとりで梨泰院のルーフトップバーにでも行こうかなと思っていたが、3万溶かした後ではとてもそんな気になれなかった。 思ったより遅い時間になってしまったこともあり、ホテルの近くのスーパーに閉店間際に駆け込み、会社で配るお土産のお菓子だけ買…
え、チップ12枚っていくら? 8千円くらい? 1回のターンで8千円?! しかも、まだプリフロップ(テーブルのカードが開かれる前)だ。 先は長い。 プリフロップでこんな強気でくるなんて、私より強いペア持ってんじゃね? KとかAペアじゃね? …無理、降…
食事の場所は、桜井の希望だった。 日本では食べられない生レバーのある、地元の人にも大人気のミシュラン掲載店である。 私はレバーが苦手なので避けつつ、ユッケとタコを卵黄に絡めたものをご飯と一緒にいただいた。 (これは本当においしかった…) その後…
待ち合わせの店に向かう道中、たまたま通りかかった雑貨屋をちらりと覗くと、店員から半強制的にお店の宣伝用バルーンを手渡された。 い…いらん。 めちゃくちゃ邪魔だ、どうしよう。 片手に真っ赤なハートのバルーン。 リュックから飛び出る丸めた的。 新世…