10年来の友人と結婚する世界線の話⑪

一切の希望を無視して私を大阪へ送り込んだ人事部は、それ以降、なぜか優しかった。 私は希望を出す限り大阪にいられたので、なんやかんや自分の意志で6年もいた。 まさかの沖縄へ転勤になった彼氏とは呆気なく終わったが、やりたかった仕事が全部できて、…

10年来の友人と結婚する世界線の話⑩

その日は眠れぬ夜を過ごしたが、年末年始休暇だったため、友達に会う予定が大量にあったのは幸いだった。 「結婚したことを黙ってるようなヤバい奴と、海苔子が結婚しなくてよかった」 親友(以下A子)にそう言われたとき、その通りかもしれないなと思った。…

10年来の友人と結婚する世界線の話⑨

何食わぬ顔で待ち合わせ場所に向かい、乾杯してすぐ、私はぶっ込んだ。 「あのさ、マッチングアプリとかやってる?」 「え?笑 なに急に。やってないよ」 「じゃあ何でLINEの名前変えたの?」 「あー…別に理由はないよ。なんとなく」 「怪しすぎる」 「いや…

10年来の友人と結婚する世界線の話⑧

私には前日の夜から、迷っていたことがあった。 「彼氏いるの?」と聞かれたら、何て答えよう。 いる、と答えたくない。 タクヤへの気持ちが、完璧に消えたわけではないからだ。 でもだからといって、嘘は吐けない。 もういいや、その時の気分で決めよう。 …

10年来の友人と結婚する世界線の話⑦

海外訓練は2年と聞いていた。 時差があるうえ、現地では寮生活ということもあり連絡はぱったり途絶えたが、半年に一回くらいのペースで「久しぶり。元気にしてる?」的なLINEが届き、たまに短い電話もした。 私はそのたびに「忘れてほしくないんだな、ふふ…

10年来の友人と結婚する世界線の話⑥

何もかも、異動のせいだ。 私は人事部を心の底から憎んだが、もう大阪に来てしまったからしょうがない。 楽しむ努力をしよう。 そして私は気持ちを切り替え、4月の終わりにはネットで見つけた謎のオフ会に顔を出していた。 ※当時、まだマッチングアプリをや…

10年来の友人と結婚する世界線の話⑤

内定式の時だったろうか。 たしか人事部長は、内定者全員に向かってこう言っていた。 「大阪にも編集部はあるが、規模が小さいし、関西出身者が異動希望を出して行くケースがほとんどだから、君たちが転勤になる可能性は2%くらい」 私はその2%に入ってしま…

10年来の友人と結婚する世界線の話④

「息子がXX大学に入ったって、母親の友達に嘘吐いてたんだよね」 タクヤは自身の学歴に軽いコンプレックスがあった。 本当は私の出身大学に入りたかったと、再会して間もない頃に聞かされてもいた。 息子の学歴を詐称をする母。 やべぇぇぇ… ほんで住所を詐…

10年来の友人と結婚する世界線の話③

それから私とタクヤは、隔週ペースで会うようになった。 飲みに行く前に映画を観ることもあれば、休日の昼間に美術展に行くこともあった。 「次は私がご馳走する」と何度言っても、彼は毎回スマートに会計を済ませてしまい、頑なに私のお金を受け取らなかっ…

10年来の友人と結婚する世界線の話②

①はこちら↓ noriko-uwotani.hatenablog.com 待ち合わせは、渋谷のハチ公前だった。 タクヤらしき人を探してきょろきょろしていると、片手を上げて近づいてくる男性がいた。 「海苔子さん!」 あぁ、いたいた、こんなやつ。 顔を見るとすぐに思い出した。 タ…

【番外編】10年来の友人と結婚する世界線の話①

昔好きだったけど付き合えなかった10年来の友人に交際を打診された。なんだこのエモい展開は — 海苔子 (@noriko_uwotani) September 14, 2023 昨年こんなことをつぶやいてプチバズりしたものの、残念な結果に終わった話がある。 ブログの趣旨からだいぶズレ…

実家暮らしのデブ研究者

慶応卒、研究者、35歳、名前は岡崎(仮)。 <フランスに留学していて、久しぶりに日本に帰ってきました> 世界各国で撮った写真と、遠目ではあったが大谷翔平を思わせる顔立ちが目に留まった。 私は何度もこのブログに「研究者の話はつまらん」と書いてき…

M-1出場芸人

Tinderをスワイプしていると、たまにプロの芸人に遭遇する。 私は以前、Tinderの広告塔を務めるラランドのニシダとマッチしてやり取りを続けたが、結局のらりくらりと躱されて会うことは叶わなかった。 一度でいいから、Tinderで(そこそこ売れてる)芸人に…

メンヘラ京大ニキ④

最初から読む方はこちら↓ noriko-uwotani.hatenablog.com ③はこちら↓ noriko-uwotani.hatenablog.com 飲み物が運ばれてきて乾杯を済ませると、私は例の長文について尋ねた。 「ところであれは、ラブレターなのかな?」 「いや、違います」 レオが即答し、私…

メンヘラ京大ニキ③

②はこちら↓ noriko-uwotani.hatenablog.com 恐る恐るURLをタップすると、長文が目に飛び込んできた。 私と出会うまでに感じていた印象と、会った時のギャップ。 喫茶店で話したこと、食べたもの。 その後にチャットで話したこと。 急に消えてしまって絶望し…

メンヘラ京大ニキ②

①はこちら↓ noriko-uwotani.hatenablog.com <今日、海苔子さんに教えてもらった本を電車で読み終わりました。思いがけず泣いてしまいました。人の文章を読んで泣いたのは、人生2度目のことです> 私がレオに紹介した本は、名作ではあるが泣くような内容で…

メンヘラ京大ニキ①

京大卒、IT企業勤務、29歳。 名前はレオ(仮)。 黒髪マッシュで、プロフィール文には好きな作家や芸人、画家の名前が並ぶ、ゴリゴリのサブカル男子だった。 <海苔子さん、初めまして。これまでマッチした人と行った喫茶店はXXと◯◯、△△です> <最初にそ…

犬系会計士

MARCH卒、会計士、28歳。 ウェンツ瑛士の遠い親戚みたいなハーフ顔で、写真もプロフィールも犬好きオーラ全開だった。 私はハーフ顔がタイプではなく、おまけに犬アレルギーだが、ウェンツはチャットの返信にユーモアがあり好感がもてた。 やり取りを続け…

ロールキャベツ系ピアニスト③

②はこちら↓ noriko-uwotani.hatenablog.com 「え、お前、そっちなの?」 会うの2回目にして「お前」呼ばわりする私もだいぶヤバいが、つい本音が漏れた。 「いや、ごめん。言うだけ言ってみただけ。だってTinderだし」 だってTinderだし。 私は、アプリによ…

ロールキャベツ系ピアニスト②

①はこちら↓ noriko-uwotani.hatenablog.com 千秋の演奏が始まる。 しっとりとした旋律が街を包んでいき、私は彼の美しい指先を横から見つめていた。 しかし、途中で気づく。 この曲、知らん!!! こういう一般ギャラリーがいる時って、ディズニーとかジブリ…

ロールキャベツ系ピアニスト①

旧帝大卒、ピアニスト、29歳。 名前は千秋(仮)。 ピアノを演奏している引きの写真しかなく顔はよくわからなかったが、180センチの長身とメガネをかけた知的な雰囲気、そして無駄な高学歴に興味を惹かれた。 加えて、彼はプロフィールに1枚の絵を載せ…

【番外編】Coffee Meets Bagelを使ってみた話(後編)

前編はこちら↓ noriko-uwotani.hatenablog.com 場所と時間を決めるにあたり、岩田は恐ろしく段取りが悪かった。 彼が提示した候補日時は私の都合が悪く、代案を出すもなかなか返信がこない。 CMBの特徴の一つに、「1週間やり取りがないとチャットルームが強…

【番外編】Coffee Meets Bagelを使ってみた話(前編)

Coffee Meets Bagel(コーヒーミーツベーグル)という、アメリカのマッチングアプリがある。 日本語版がないので、そこそこ英語ができないと使えないものの、 ・Tinderより真剣 ・外国人ユーザーが多いが、ハイスペも多い と友人に勧められ、使ってみること…

裏垢もってるエクアドル人【後編】

前編はこちら↓ noriko-uwotani.hatenablog.com 飲みに行く流れは想定してなかったが、気になる居酒屋が近くにあったことを思い出しルイに伝えると、彼はすぐ店に電話をかけてくれた。 「佐藤で2名でお願いします。10分後くらいに行きます」 素晴らしい段…

裏垢もってるエクアドル人【前編】

慶応卒、エンジニア、31歳、名前はルイ(仮)。 マスクをした写真しかなかったが<ハーフです>と書かれていて、イケメン風に見えた。 <趣味は哲学書と古典を読むこと、ピアノを弾くこと> そんないたって真面目なプロフィールの最後に、気になる一文があ…

傷心中のイケメン建築士

国立院卒、建築士、28歳、名前はカイト(仮)。 背が高くオシャレで、ペアーズなんかで無双できそうなイケメンだったが、文章が固くアプリ慣れしてないオーラが漂っていた。 そして、自宅と思しき写真の本棚のラインナップが、ほとんど我が家と同じだった…

【番外編】THE SINGLE銀座コリドー店に行った話

私が20代前半だった頃。 今となっては信じられないが、まだ世間には「マッチングアプリやってる奴ヤバい」という空気が漂っていた。 そんな時代、友人と冷やかし半分で、某地方都市のシングルスバーに行ったことがある。 女性は入店すると待合室に通され、…

ベトナム駐在中の象使い(再会編)

私がこのブログに書くのは、基本的にはもう会わない、会えないであろう人だけだ。 だけど、書いた後で予想外に再会する人がたまにいる。 その時はいつも「すまんネタにしてもうた」と、前科者のような気持ちで接している。 そんな一人、初めて会った当時はベ…

ドMの外資コンサル(後編)

前編はこちら↓ noriko-uwotani.hatenablog.com それは、ツカサが大学に入って初めてできた彼女の話。 サークルの同期だったが、インカレだったので大学は違った。 リストカットの傷跡がたくさんあるような子だった。 「気づいたら家にいた、みたいな感じで。…

ドMの外資コンサル(前編)

旧帝大院卒、外資系コンサル勤務、29歳。 名前はツカサ(仮)。 顔が私の元彼に似ていて、要はタイプだった。 そして、 <年上が好きです!> プロフィールにはそうあった。 単に年上のせいだろうか。 ツカサは顔の見えない私に積極的で、マッチした直後か…