その日は眠れぬ夜を過ごしたが、年末年始休暇だったため、友達に会う予定が大量にあったのは幸いだった。
「結婚したことを黙ってるようなヤバい奴と、海苔子が結婚しなくてよかった」
親友(以下A子)にそう言われたとき、その通りかもしれないなと思った。
私は気になっていたことを、A子に聞いてみることにした。
「でもひとつ不思議なのがさ、タクヤはあの投稿を見られたくなくてLINEの名前を変えたわけじゃん?それなら投稿を全体公開にしなきゃよくない?他の投稿は見られないから、やり方を知らないとかじゃないと思うんだよね」
「うん、私もそこ気になってた。矛盾してるよね。奥さんタグ付けまでして」
私たちはこの矛盾についてしばらく考え続けたが、結局答えは出なかった。
それでもA子と話せば話すほど、心が軽くなっていくのを感じた。
数日後。
A子から突然「いま電話できる?」とLINEがきて、私は通話ボタンをタップした。
「海苔子、あの謎が解けたかも」
彼女の仮説はこうだった。
パイロットは1年の半分が外泊のため、浮気しようと思えばいくらでもできる環境にある。
それを心配したタクヤの妻が、浮気防止のため「Facebookに全体公開でこういう投稿をしろ」と指示したのではないか?
彼が渋々それに従ったならば、全体公開したことも、わざわざ妻をタグ付けしたことも、そしてLINEの名前を変えたことも、全て筋が通るー
「探偵かよ」
いつしかタクヤに言われた言葉を、私はA子に返した。
「その通りだと思う。すごいよA子」
「私も自分で天才かと思った笑」
「ずっと悲しかったけど、なんかだんだん腹立ってきたな」
「今度会ったらガツンと言ってやりなよ」
「でもさ、私が知ってるってことを彼は知らないわけじゃん?Facebookこっそり見たとか言えないし」
「そっか。たしかに…。今度いつ会うの?」
「決まってないし、誘われても行かないかもなぁ…」
年が明け、休暇を終えて私は大阪に戻った。
会社では、次年度の異動希望を出すタイミングが近づいていた。
私が大阪で仲良くなった人の多くが転勤族で、当時付き合っていた彼氏もまたそうだった。
東京に戻る一択の私と違い、4月には47都道府県どこに行くかわからない状況の彼との未来が見えず、雲行きが怪しくなり始めていた。
もし、タクヤと付き合う可能性が少しでもあったならば、私はひょっとすると、東京に戻る選択を視野に入れていたかもしれない。
でも、その可能性はゼロになった。
今の彼氏とは別れるかもしれないが、それでも圧倒的に仕事が楽しい大阪に、もう少しいたい。
私は迷わず ”現職を希望” を選択した。
1月の半ば頃。
<1月◯日、大阪ステイなんだけど、ごはん行ける?>
何も知らないタクヤから、食事の誘いがあった。
スケジュールを見ると、その日はたまたま出張が入っていて、悩むまでもなく物理的に不可能だった。
<出張で大阪にいないや>
<そっか、残念。また連絡する!>
どの面さげて、言ってんの?
このとき出張がなければ、私は会いに行っただろうか。
言いたいことをぶちまけられただろうか。
それは今でも分からない。
しかし、タクヤの方もまた、新婚というステータスに後ろめたさが芽生えたのだろう。
それ以降、食事の誘いは途絶えた。
続く。