10年来の友人と結婚する世界線の話⑧

私には前日の夜から、迷っていたことがあった。

 

「彼氏いるの?」と聞かれたら、何て答えよう。

 

いる、と答えたくない。

タクヤへの気持ちが、完璧に消えたわけではないからだ。

でもだからといって、嘘は吐けない。

 

もういいや、その時の気分で決めよう。

 

私は明日の自分に対応をぶん投げて眠ったが、そんな心配は杞憂に終わった。

 

「見て。俺のスマホ、天気アプリが5個入っててさ、」

 

晴れて副操縦士になったタクヤは、仕事で使うという5つの天気アプリの違いについて真っ先に解説した。

 

きょ…興味ねー…

最初にする話、もっとないのかよ。

3年ぶりだぞ?

私が結婚しててもおかしくないぞ?

彼氏いるの?って聞けよ!!!

 

「へぇ。気象予報士にもなれそう笑  フライトはどう?楽しい?」

 

「うーん…機長次第かな。あの狭い空間に二人きりだから、合わないとけっこうキツい。海苔子は?」

 

「本社にいた頃よりずっと楽しい。ついに仕事でジャルジャルに会えてさ、」

 

私も私だった。

3年という月日を経てもなお、私たちの間には恋愛の話を振ってはいけないという暗黙の了解があった。

 

そうして上っ面の近況報告をし合い、踏み込んだ話を一切しないまま店を出た。

いかんせん3年ぶりなので、恋愛の話を避けてもまだまだ話すことはあったが、2軒目には行けなかった。

 

パイロットはフライトの◯時間前からは禁酒という厳しいルールを課せられていて、1軒目で既にその時間を過ぎてしまったからだ。

 

「海苔子、全然変わってなくてよかった。また大阪ステイの時は連絡するよ」

 

「うん。お店開拓しとく」

 

家に帰ると、どっと疲れが出てきて、自分が緊張していたことに気づいた。

 

でも、再会できた。

大阪にいたおかげで、再会できた。

きっとこれからも会える。

 

相変わらず恋愛の話を振ってくれないところは残念だったが、やっぱりタクヤとは、縁があるのではないか…?

 

大阪にいる彼氏に罪悪感を覚えながらも、私はタクヤとの関係性が変わることを、ぼんやり期待し始めていた。

 

その後、タクヤと私は、1~2ヶ月に1度のペースで、大阪で飲みに行くようになった。

 

何度会っても恋愛の話を振られることはなく、なおかつ私はこの頃付き合っていた彼氏のことがちゃんと好きだったので、次第にタクヤのことをいつかの彼氏候補ではなく、ごはんを奢ってくれる男友達と認識し始めていた。(すまん)

 

ある冬のこと。

 

<12月◯日大阪ステイなんだけど、夜空いてる?>

 

いつものようにタクヤからLINEが届いたが、私はあることに気づいた。

 

LINEの名前が、変わっている。

 

それまでフルネームだったものが、「Takuya.K」のような、名字を濁す表記に変わっていた。

 

こいつ…もしや…マッチングアプリ始めた!???

本名を濁すってそういうことじゃね?

それしかなくない??

え、やだ。

やめてくれぇ!!!

 

※当時の私はまだマッチングアプリ芸人ではなかったが、同僚がアプリをやっていたのでLINEの名前を変える不自然さについての知識はあった。

 

勝手に友達認定をしたにも関わらず、タクヤがアプリを始めた(かもしれない)ことに私は自分でも驚くほど落ち込んだ。

 

私がいるのに?

お前さえその気なら落とせるいい女が、ここにいるのにか!?

 

<空いてるよ!19時にXXXでどう?>

 

この件については会った時に話そうと決め、私は文面では何も触れず、タクヤに会った。

 

続く。