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高3の冬に願いを叶えた仁の性への関心は、それからどんどん過激になっていった。
上京して大学に入ったあとは青春18切符で混浴を巡るようになり、チャイニーズエステ、成人映画館、ハプニングバー、女性用風俗でのバイト、そして公園での露出系カップルの覗き。
中には、もはや犯罪スレスレでは?と思われるものも含まれていた。
彼があまりにもあっけらかんと話すものだから、私も面白くなってしまい、異世界を覗く気持ちで話を聞き続けた。
「あ、そういえば、前に俺がドタキャンした日。あの日も実は混浴に行ってました」
10ヶ月経って、明かされた真相。
私は混浴に負けていた。
「あの日は朝に着いて、夕方の5時までワニしてて」
「ワニ?」
「混浴で、女性やカップル客がやってくるのをじっと待つ人を指す用語です」
身を潜めて獲物をじっと待つワニ。なるほど。
「カップルで来る人いるの?」
「はい。行為を見られたい人とか、寝取られ趣味の人とかが、混浴で実際にするんです。そういうので有名な混浴がいくつかあって」
女性の裸が目的じゃないのか?
彼の性癖は、私が想像していたよりずっと歪だった。
「で、あの日俺は途中でのぼせちゃったから、湯から上がって寝てたんですよ。そしたら身体にトンボが止まって」
「うん」
「あ、ワニにトンボが止まった!って思ったんですよね」
「…あんま上手くないよ笑」
来るかどうかもわからない他人のために、よく何時間も待てるものだなと感心しながら聞いていたが、彼いわく「来るかどうかわからない」ギャンブル性こそがハマる理由なのだという。
「待ってる間って暇じゃない?何してるの?」
「うーん…何してるだろう。あ、耳をすませてる」
「…笑」
「これ覗きあるあるで、聴力が鍛えられるんですよ。そしてだんだん幻聴が聞こえてくるようになる」
どうやら神は、この美しい男に試練を与えたらしい。
2時間近く話した後、私は彼の人生を総括した。
「なんか、大変だね」
「そう。変態は生きづらいんです。犯罪になりかねないし」
こうして書き起こすと面白い感じに見えてしまうのだが、電話口の彼の声は、心から苦しんでいる人のそれだった。
私はこれまで「変態」という言葉を、安易に使ってきたことを恥じた。
本物の変態は、苦しんでいるのだ。
ドン引きすることなくうんうんと話を聞き続ける私を不思議に思ったのか、彼は尋ねた。
「もしかして海苔子さん、こういう世界に興味あります?」
「ないよ笑 ただ単純に、知らない世界の話はワクワクする。面白がってごめんね」
私は付け足した。
「あ、でも唯一。ストリップ劇場は行ってみたいなってずっと思ってる」
「それなら、浅草のロック座に行くといいですよ」
いつしかNetflixで観た映画『浅草キッド』の記憶が蘇った。
あの感じだよな。観てみたい。
仁は続けた。
「一緒に行きますか?」
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