ロールキャベツ系ピアニスト②

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千秋の演奏が始まる。

 

しっとりとした旋律が街を包んでいき、私は彼の美しい指先を横から見つめていた。

 

しかし、途中で気づく。

 

この曲、知らん!!!

 

こういう一般ギャラリーがいる時って、ディズニーとかジブリとかビートルズとか、誰もが知ってる曲の方がよくない?

え、カラオケの1曲目でバラード歌うタイプ??

 

曲は5分ほどで終わり、とりあえず私は盛大な拍手を送った。

 

そして知ったかぶりもできないと判断し、尋ねた。

 

「いまの、何の曲?」

 

千秋は苦笑して答えた。

 

ビートルズの~~~です」

 

惜しい。知らん。

Let It Beとか、代表的な曲にしてくれよ。

 

内心そう思ったが、演奏してもらったことに対してお礼を伝えた。

 

「いいものを聴かせてもらった。ありがとう」

 

「いえいえ。緊張しました…。ところで海苔子さん、まだ時間あります?もう少し話したいので、別のカフェ行くか飲むかしません?」

 

千秋はそう言ってくれたが、私は次の予定があったので、その日はそこで解散した。

 

<今日はありがとうございました!またごはんとか、ライブとか誘わせてください!>

 

千秋からすぐにLINEが届き、その後も毎日やり取りが続いた。

 

ちょっとこれは、久々にいい感じかも知れない。

 

だがしかし、私はクラシックにもジャズにも疎く、正直あまり興味もなかった。

 

彼が引き出しの多いタイプならいいが、研究者的な1点深掘り型だと、だんだん会話がつまらなくなるパターンに違いない。

 

あと、私が川谷絵音が好きとか知ったら、引いてしまうんじゃなかろうか??

 

ロマンスがありあまる不安を抱え、音楽の話題を避けつつ他愛のないやり取りを続けること3日。

 

<週末、もし空いてたら飲みに行きませんか?>と千秋に誘われた。

 

そして翌週の土曜の夜、千秋が予約してくれたビストロで再会した。

 

千秋は相変わらずかっこよく、薄暗い店には大きなスピーカーがあり、ジャズのレコードが流れていた。

 

「ここ、音響がいいんですよね。前にも来たことがあって」

 

それから、音楽以外の話をたくさんした。

 

千秋は意外と好奇心が強く様々なことに関心をもっていて、会話の引き出しが多かった。

 

私が「◯◯っていう本に書いてあったんだけど」と引き合いに出す作品のほとんどを知っているほど、読書家でもあった。

 

あ、大丈夫そう。

ずっと喋れるタイプの子だ。

 

安心すると同時に、別の不安が沸き起こってきた。

 

芸術系の人は、たいてい難しい。

仮に付き合ったところで、どうせ長くは続かない。

 

「海苔子さんはいつから彼氏いないの?」

 

気づけば彼はタメ口になっていた。

 

自分の恋愛遍歴を控えめに話して千秋に同じ話を振ると、大学時代から5年も付き合い婚約までした彼女がいたが、その子と別れてからはあまり長続きしてないと教えてくれた。

 

「ファンに手出したりとか、ないの?」

 

私が冗談半分で言うと、彼はあっさりと答えた。

 

「あるよ」

 

「…え?」

 

「バーで演奏する時ってお客さんとの距離が近いから、終わったあと一緒に飲んだりとかザラで」

 

「へぇ…。で、仲良くなって連れて帰るわけ?」

 

「うん。でも、だいたい2回くらいエッチして、向こうも2回くらいライブ観にきてくれて、それでなんとなく終わりになるパターンが多い」

 

ほ、ほぅ…

 

「意外。もっと真面目な子だと思った」

 

「ミュージシャン界隈ってみんなそんな感じだから、感覚狂っちゃうんだよね」

 

バンドマン、美容師、バーテンダー

3大「付き合ってはいけないB」という言葉を思い出した。

 

私は軽く引いたが、それでもいろんな話をしながら楽しく3時間ほど飲み、店を出た。

時計を見ると22時だった。

 

千秋は言った。

 

「まだ時間あるなら、もう1軒行く?」

 

「いいよ」

 

「それか、ホテル行く?」

 

「…はい?」

 

あまりにもさらりと言われ、思わず低い声が出た。

 

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