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露出系カップルが集まるホテルの話は、仁と通話したときに聞いていた。
日本には「覗かれること」を目的としたカップルが集う古いラブホテルがいくつかあり、彼は混浴に加えそちらの覗きも趣味としているらしい。
「ちょっと覗いて、あとは添い寝するだけでいいから。ねぇお願い」
私は正直、露出系カップルを覗きに行く彼のような人の生態と、ホテルの構造に少し興味があった。
だけど、泊まれば添い寝で終わるわけがない。
「ごめん無理」
そもそも泊まるつもりで来てなかったことに加え、私はこの数日前に軽い事故で手足を負傷しており、薬とガーゼ交換のため帰宅しなくてはならないという情けない事情もあった。
「怪我してるから、どうしても帰らなきゃいけないんだよね」
私が傷を見せると、仁は言った。
「うわ、痛そう。じゃあ一緒に帰る」
「そういうつもりで来てないって」
「本当に添い寝するだけだから。まだ話したいし」
まずいな、この流れ。
普段の私なら強い意志で撒いて帰るのだが、仁はひとりの人間としてあまりにも興味深く、まだ聞きたいことが山ほどあった。
「とりあえずちょっと飲もう」
私は行ったことのある浅草のバーに仁を押し込み、それはそれはいろんな話をした。
子供の頃にADHDと診断され、勉強はできたけれど仕事はあまりできず、性欲に支配され続けている彼の人生のこと。
最低だった自己肯定感を取り戻せたきっかけ。
地元の話。家族の話。愛する彼女の話。
マッチングアプリの話。
「退会してもすぐ再開しちゃうから、永久追放されるために『おち○ちんの写真見てください』ってメッセージを送りまくってた。先週ようやく通報されて全部退会できたところ」
確かに、会う直前にTinderのメッセージ欄を見たとき、仁は消えていた。
「Tinder10年やってるって言ってたけど、10年前って大学生だよね?その頃も彼女はいたの?」
「ずっといたよ」
「どういう子を好きになるの?」
「外見で好きになることはまずなくて、性格だけ。でも、性格って知るのに時間がかかるでしょ?だから同じコミュニティーの人ばっかり」
今の彼女とも、大学で知り合ったという。
彼の現在の行動とは裏腹に、彼女への想いはちょっと引いてしまうほど無垢なもので、私はそのギャップがどうしても理解できなかった。
掘っても掘っても底が見えない、深くて暗い穴みたいな人だった。
駄目だ。まだ知りたい。
バーを出ると、しつこくホテルに行きたがっている仁をどうにか落ち着かせようと、隅田川沿いを延々と散歩した。
私は歩きながら、自分の中に変な欲求が芽生えているのを感じた。
この人のことを、小説に書きたい。
好奇心に支配された私は、彼を家に招き入れてしまうことを薄く予感した。
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