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飲み物が運ばれてきて乾杯を済ませると、私は例の長文について尋ねた。
「ところであれは、ラブレターなのかな?」
「いや、違います」
レオが即答し、私は拍子抜けした。
「すみません。さっき読み返して、自分でもそうとしか読めないよなって思いました。もう海苔子さんに会えないんだって思ったら本当につらくて、泣きながら書いたんですよ。人間的に惹かれているのは事実です。でも、恋愛感情ではないです」
パードゥン!?!?
「海苔子さんのこと、すごく尊敬してるんです。だから恋愛ではない関係性で、これからも仲良くしてほしいって思ってます」
ほ、ほぅ!?!?
私はTinderを使う目的を恋愛に限定しておらず、現に、このブログを見られているくらい良き友人になった男性もいるので、それはそれで構わない。
でも、何だろうこの違和感は??
まあいいや。
ならば私も、自分の恋愛の話を聞いてもらうとしよう。
そして私は直近あった、”10年来の男友達と再会し、付き合えそうで付き合えなかった話” をした。
この話もいつかここに書くかもしれないが、簡単に言うとその友人は、一度結婚して離婚した事実を、今も私に隠し通している。
「そういう大事なことを隠す人ってさ、不誠実だと思うんだよね」
私がそう話をまとめると、レオは真っ直ぐに私の目を見てこう言った。
「あの、結婚してます」
コンマ数秒、考えた。
誰の話???
しかしどう考えても、答えは目の前にいる男しかあり得ない。
は…?
はぁ!?!?!?
「どういうこと?え、何でいま言うの」
「海苔子さんの話聞いて、黙っておくのは不誠実だなって」
「私が話さなかったら、ずっと言わないつもりだった?」
レオは質問には答えず、言葉を続けた。
「ずっと別居してるんです。2人で家を買ったんですけど、彼女が出て行ってしまって」
「何で離婚しないの?」
「世間体…ですかね。だからもう、自分は既婚者だっていうアイデンティティがないんですよ」
「アイデンティティ?それでないものにできるわけないじゃん。性自認は女ですって女風呂に入ろうとする男とやってること同じだよ」
レオはしばらく黙ってから、口を開いた。
「…結婚したら他の誰とも仲良くしちゃダメなんですかね?」
「結婚って、他の女性との浮ついた関係を断ち切る契約じゃないの?」
私は続けた。
「未婚のフリをして、未婚の女性に近づいて『下心はありません』は通用しないんじゃない」
レオは黙り続けている。
「それに、アプリで知り合って”既婚ですけど飲み友達になってほしいです”なんて言われても、『わしゃ安いキャバクラか』としか思えないよ」
彼はつぶやくように言った。
「ごめんなさい」
「多分だけどさ、レオは物語に取り込まれたいだけだと思う」
「え?」
私は止まらなくなっていた。
「喫茶店で会ったときは大して何も感じなかったけど、後であの本を読んで感銘を受けて、作家への敬意や愛を私へのそれと履き違えて、自分の中で物語を膨らませてしまっただけ」
レオは再び沈黙した。
なんやかんや3時間ほど飲んでいた。
居酒屋を出て駅に着くと、私は言った。
「じゃあ、ここで」
「お別れですか?」
「うん。お元気で!」
あえて笑顔で言った。
そして今この文章を、怒りに任せて書いている。
こんな長文を書いている時点で、似た者同士なのかもしれない。
似ているからこそ、引き寄せてしまうのだろうとも思う。
だけど私は、本人にリンクを送りつけたりはしない。
ぶつけていい感情とそうではない感情の区別はつく。
そう思っていたい。
私はお前とは違うと、そう思っていたいからだ。
<終>