10年来の友人と結婚する世界線の話②

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待ち合わせは、渋谷のハチ公前だった。

 

タクヤらしき人を探してきょろきょろしていると、片手を上げて近づいてくる男性がいた。

 

「海苔子さん!」

 

あぁ、いたいた、こんなやつ。

顔を見るとすぐに思い出した。

 

タクヤは目鼻立ちのはっきりした、世間的にはイケメンの部類に入る顔立ちをしていたが、川谷絵音みたいな微妙な薄顔がタイプの私に刺さる顔ではなかった。

 

それでも、あの面接の日の帰り道。

合格したかもしれないという僅かな希望を抱えて一緒に山手線に揺られ、「お疲れ!」と言って解散した瞬間のことを思い出し、懐かしさに包まれた。

 

…のも束の間。

 

目の前に立つタクヤを見て、私はドン引きした。

 

デカデカとハイブランドのロゴが入ったバッグとベルト、腕にはロレックス、片耳にピアス、キツい香水。

 

NI・GA・TE!!!

 

新入社員という立場上、顔と髪型はかろうじてノーマル仕様だったが、歌舞伎町のホストかよとツッコミを入れたくなる装いに私は引いた。

 

タクヤが予約してくれた居酒屋に入り、お互いの近況を話す。

航空会社の地上職で、慣れない仕事に苦戦しているという彼は、さらりとこう言った。

 

「でも俺、パイロット採用だからさ」

 

ぱ…パイロット???

 

って、普通の大学出てもなれるの?

そんな採用枠あるの?

 

え、こいつ、すごくね??

 

私は俄然、興味が沸き、そこから根掘り葉掘り質問しまくった。

 

まず航空会社のパイロットになるには、航空大学を出て入社するルートと、一般の四年制大学を出て自社養成枠で入社するルートの2つがあるらしい。

 

後者は普通に就活をして狭き門を潜り抜けたら、まずは2~3年ほど地上職スタッフとして働き、社会人の基礎を叩き込まれる。

その後、海外で2年ほど飛行訓練をし、帰国してさらに国内で研修を受けて、足掛け7年でようやく副操縦士になれる、とのことだった。

 

「航空会社で働いてると、家族みんな国内線は無料だし、国際線もヨーロッパまで2~3万とか破格で乗れるんだよ」

 

それはつまり、結婚すれば私も旅行し放題ということ…?

アツい…アツすぎる。

 

ゲンキン極まりないが、私はその瞬間、7年後にパイロットと結婚する海苔子を妄想した。

 

こいつを逃してはならないと、頭の中で声がした。

 

その日は4時間くらい飲んでいたと思う。

 

タクヤ君、どこ住んでるの?」

 

「三茶だよ。海苔子は?」

 

いつの間にか呼び捨てになっていた。

 

「いいとこ住んでるね。私はXX(新宿区)だから地下鉄で帰るね」

 

タクヤが奢ってくれたので、私は帰宅後、お礼のメッセージを送った。

そして、「今度は私がご馳走するね!」と前置きし、このお店が気になっているなどと提案すると、彼はめちゃくちゃ乗り気だった。

 

なんか、イケそう。

落とせそう。

いや、絶対落とせる!!!

 

若かりし私は、今とは比にならないほどに強く、自信過剰だった。

 

続く。