総合商社勤務、32歳、名前は春彦(仮)。
出身大学は私と同じで、身長が書いておらず低そうに見えたが、顔は整っていた。
残念ながら、30歳を超えてTinderをやっている総合商社マンにロクなのはいない。
彼らは年収が高くモテる上、海外駐在があるため結婚が早い。
だから30歳以上の独身は、究極の遊び人か「難アリ」のいずれかである。
しかし春彦の文章からは、真面目さが滲み出ていた。
<奥深そうな方ですね。人への興味も探究心も強そうで、気になりました>
私は確かに顔を出してないが、最初の一投で内面にツッコんでくる人はかなり珍しい。
おや?と気になり、しばらくやりとりを続けた結果、彼に会ってみたくなった。
<喫茶店で会わない?>
<いいですけど、何で喫茶店なんですか?>
<ヤリモクとかヤバい奴は、喫茶店にはこないから。初回はお茶がいい>
<なるほど、興味深いです。ちなみに僕ヤリモクじゃないですけど、喫茶店からホテル直行したことありますよ笑>
<どういう状況??>
<30分くらいお茶してたら、女性の方から「私、したいです」とストレートに言われまして。最初は丁重にお断りしたのですが、押しに負けた感じです>
き、聞いたことねぇ…
やはりバチボコイケメンなのだろうか。
私は俄然、春彦に会ってみたくなり、その週末に新宿の喫茶店で待ち合わせた。
現れた春彦は想像通り、背の低いイケメンだった。
商社マンらしくコミュ力が高く、私の小ボケにもきちんと反応してくれて好感をもったが、警戒心が強いようで名字や会社名は教えてくれなかった。
もしや既婚者トーマス?
と思い、慎重に彼の情報を引き出した結果、理由が分かった。
彼の父親は警察官。
おそらく遺伝子的に悪いことができないのだ。
また、大学が私と同じでおそらく共通の知人がいるので、知人にバレることを恐れている気配もあった。
どうにか警戒心を解きたくて、手始めに例のヤリモク女の話を振ってみたところ、詳細を教えてくれた。
「美容関係の仕事してる子でした。会ってすぐ話が合わないなって思ったから、僕は会話にやる気をなくしてしまっていて。後で聞いたら、彼女もそれを察して路線を切り替えたって言ってた。その場でGoタクシーを呼び出されて、ホテルに連れて行かれて、美人局なんじゃないかと思って怖かったよ」
「その状況で『ラッキー!』とは思わないんだ?真面目だね」
「そういうのはしない主義だから。遊びでやっても、後で『自分何やってんだろ』って虚しくなるんだよね。それなら一人でする方がずっといい」
こいつ、奇跡の人材か?
遊び放題のスペックを持ちながら、こんな真面目な総合商社マンがTinderにいるのか???
これはもしや、真剣恋愛コースじゃね?
私が淡い期待を抱き始めたその時、彼はこう言った。
「ねぇ、Tinderで真剣に付き合うとか結婚とか、ないよね?」
おい!
それをここで言うとは、どういう意味だ!
私は抵抗した。
「私の後輩、Tinderで出会った人と結婚したよ」
「うそ!?」
彼は心底驚いていた。
「本当。他にも3人くらい結婚した人知ってる」
「へぇ、あるんだ…。僕、今まで7~8人会って、他にもちょっとヤバい人がいて、」
Tinderあるある。
これまで会ったヤバい人暴露大会になりがち。
私もネタの宝庫なのでたまにやってしまうのだが、これが始まってしまった場合、たいてい2回目はない。(当たり前)
しかし私は察していた。
彼は引きが強い。
続くエピソードが気になり、続きを促した。
「37歳くらいの、メーカーで役員してますっていうハイスペックな女性だったんだけど、『結婚したくないけど子供が欲しいから、タネをくれ』って言われて」
どうしてか真面目な春彦は、ヤリモク女に狙われる運命にあるようだった。
後編はこちら↓