代々木に「手帳類図書室」という珍しい施設がある。
手帳や日記、家計簿、ネタ帳など、あらゆる「手帳類」を収集するコレクターの所蔵物を、1時間1000円で読める変わった図書館だ。
店内は普通にギャラリーなので、スタッフに「手帳を見にきました」と伝えると、奥の事務所スペースに入れてもらえる。
システムは、テーブルに置かれた目録から借りたいものを3点選んでスタッフに伝え、持ってきてもらうというもの。
一度に借りられるのは3点までだが、1点返せばまた1点借りることができる。
※ちなみに手帳は個人情報の宝庫なので、撮影は目録の表紙しか許されなかった。
私は友人と90分ほど滞在し、5点を借りて読んだ。
①デリヘル嬢の手帳
ショッキングピンクのウィークリー手帳に、日々の売り上げと客の情報を延々記録したもの。
〔XXX(芸人)似のサラリーマン。本強されて最悪。マジキモい。チンコでかい。〕
〔大学生。弁護士目指してる。○○似でかっこいい。すぐイッた。〕
〔70歳のおじいちゃん。孫が5人いる。ジュース買ってくれた。〕
終始こんな感じ。
悪態をついていてもどこか軽やかで、明るい彼女の人物像が目に浮かぶようだった。
②不倫主婦の家計簿
右ページには収入と支出の欄、左ページはマンスリー手帳のような構成になっていて、マンスリーの小さいマス目にものすごく細かい字で日記が綴られていた。
この主婦、どうやら不倫をしているっぽい。
「誠」という男が頻繁に出てきて、デートしたりホテルに泊まったりしている。
誠への恋文やポエムらしきもの、ファンであったと思しきT.M.レボリューションの写真なども挟まっていた。
右ページには毎月
〔収入(圭一)XX万円〕
という数字が入っているが、ある日、この〔圭一〕の名前が消え、別の名前に変わる。
どうやら離婚して再婚したっぽい?
限られた情報から人生を紐解くのは穴埋め問題みたいで、新鮮な体験だった。
③ギャンブル中毒の50代サラリーマンの日記
6年で終わっていた10年日記。
〔○万負けた。〕という記録が信じられないほどたくさん並んでいた。
最後のページには〔こんなに長く日記を続けられたのは初めてのこと。借金400万にて、6年目で終了〕という結びの言葉と、
〔お金の奴隷解放宣言〕
という叶わなかった宣言が書かれ、残高0で凍結された通帳がそのまま貼り付けられていた。
この方が病気で亡くなった後、遺族が「こういう人がいたということを知ってほしい」と寄贈したそうだ。
④男子学生の恋愛日記
「まるちゃん」という女性への恋心が、緑のペンでぎっしりと綴られた大学ノート数冊。
気持ちが募るほど、字が小さく長文になっていくのには狂気さえ感じたが、まるちゃんにフラれた後、あっさり次の女性にターゲットが切り替わる様がいかにも「人間」って感じ。
これだけ読むとヤバい奴だけど、実物は人当たりのいいプレーンな方だろうなと、なんとなく予想した。
⑤女子大生の闘病記
難病を患った女子大生の5年分の日記。
最初は明るく、友達がお見舞いに来てくれた様子を嬉しそうに綴っているが、病状の変化や転院などで鬱っぽくなっていく。
字がどんどん雑になっていくのと、大学を卒業して社会人になった友達がお見舞いに来てくれなくなる様子が切なかった。
以上。
とにかく時間が足りなくて、あと7時間くらい滞在できそうだった。
図書室を出て「なぜ人はネガティブな記録までも残そうとするのか?」という素朴な疑問について考えていたら、③のギャンブラー日記を読んだ友人が
「最初は書いて戒めにしようとしたけど、負けたって書くことで逆にスッキリしちゃってたのかもね」
と言っていて、なるほどと思った。
忘れたいことも、忘れたくないことも、書けばスッキリする。
私がこんなブログを書いている理由もきっとそう。
帰り際にスタッフが「ここにある手帳、たまに本人が読みにくることがあるんですよ」と教えてくれた。
私にはその気持ちが、ちょっとわかる。
いつか私も「うわ、懐かし!いたいたこんなやつ!」と笑いながら、このブログを読み返すような気がしている。
どうかその時は、いまより少しは幸せであれよと願いながら、今日もティンダーをぶん回しています。