ドMの外資コンサル(後編)

前編はこちら↓

noriko-uwotani.hatenablog.com

 

それは、ツカサが大学に入って初めてできた彼女の話。

 

サークルの同期だったが、インカレだったので大学は違った。

リストカットの傷跡がたくさんあるような子だった。

 

「気づいたら家にいた、みたいな感じで。2年半付き合ったんですけど、最初の半年以降はもはや好きだったかどうかも分からないです…。メンタルの弱い子だったから、別れたら死んじゃうんじゃないかと思って、別れられなかったんですよね」

 

ある日の夜、彼が自宅の風呂から上がると、床に座った彼女がクローゼットの持ち手にネクタイをかける形で首を吊っていた。

 

「お風呂入る前まで一緒にごはん食べて笑ってたので、めちゃくちゃ怖かったです。それから1年くらいして、ようやく別れられました」

 

交際していた2年半の間、彼女の食費と洋服代、携帯代も、なぜかツカサが自身の仕送りから支払っていたという。

 

「何で?おかしいと思わなかった?」

 

「初めての彼女だったので、そういうものなのかなって思ってました。アホですよね」

 

「顔がめちゃくちゃ可愛かったとか?」

 

「全然。むしろどちらかというとブサイクな方でした。僕、顔の好みがあまりないので」

 

ほほぅ…

 

それから私は、彼の歴代の元カノ(ほぼメンヘラ)の話を色々と聞いた。

 

そして気づいた。

 

この子、プライドがない。

 

学歴や年収を武器にモテるようになり、どんどん理想が上がっていってもおかしくないはずなのに、「女は若くて美人な方がいい」というマジョリティの価値観が、びっくりするほどない。

 

私は尋ねた。

 

「年上が好きなのはどうして?」

 

「それはもう完全に性癖ですね」

 

ストレートすぎて笑った。

 

「ドMだからだ」

 

「それもあるんですけど、あぁ、年上の人がこんなになってる…!って感じがたまらないんですよ」

 

「あはは。上は何歳までいける?」

 

「一時は60~70代にハマってましたね」

 

耳を疑った。

 

「…どこで出会うの?」

 

「Tinderにはいなかったですね。で、今まで会った最高が51歳。僕が26歳の時に」

 

おい。

何からツッコめばいい。

 

「Tinderで会った51歳と、したわけ…?歳が倍くらい違ったら、そもそも話が合わなくない?」

 

彼は軽やかに答えた。

 

「合わないですね。だからエッチな話しかしなかったです!」

 

私が引いているのを察したのか、彼は付け加えた。

 

「でも、年上だけってわけでもなくて、ジュニアアイドルとかも普通に好きですよ」

 

お前がいま火に注いだのは水じゃない。油だ。

 

「へぇ…」

 

「で、今は30代がいちばんエロいフェーズなんです」

 

やったー!私、30代だ!

ってなるとでも、思った?

 

私はいよいよ本格的に引いてしまい、そのまま終電で帰った。

 

だけど、このブログの最初の記事に書いた通り、私は普通の人に興味がもてない。

ツカサのような変態は興味を惹かれる存在ではあったし、彼と話した時間は楽しいものだった。

 

あと、こういう変わった価値観の持ち主に出会うと、安心する。

どんな人にだって価値を見出してくれる人はいるのだと、そう信じられるからだ。

 

性癖はさておき、彼の10年後、復讐劇の結末はいかに。

 

ニュースになったら気づけるように、私は彼の本名を頭に刻み込んでいる。