東大スタートアップCEO(後編)

前編はこちら↓

noriko-uwotani.hatenablog.com

 

いや、別にいいんだ。

プロフィール文からして友達探しっぽい雰囲気だったし。

私に会ったのもそういう目的ではなかったろうし。

 

でも、会う前に「わざわざ」指輪を外したのだとしたら。

それはかなり、ムカつくぞ…?

 

私は持ち前の好奇心を爆発させ、東大で彼の同期だったと思しき友人Aに連絡をした。

 

<…って状況なんだけど、Yutaさんは既婚なのかな?別れてる可能性もあるとは思うけど>

 

例の記事の日付は、2年前だった。

離婚していてもおかしくはない。

 

Aは「会ったことはあるけど、友達と呼べるほど親しくはない」と言いながらも調査に協力してくれた。

 

そして我々は、なんやかんやあって、離婚(仮)という結論を導いた。

 

ならば。

それならば。

もう一度お会いしたい。

 

私は心の底からそう思った。

 

もし仮にYutaが普通の会社員だったとしても、そう願ったはずだ。

そのくらい、彼の話は興味深く、面白かった。

 

爆イケ社長は、石原さとみ中条あやみ、あるいは東大の同級生と結婚すると相場が決まっている。

だから「付き合いたい」などと図々しいことは言わない。

例えば私が会社をクビになったとき、バイトとして働かせてもらえるか打診できるくらいに、仲良くなりたい。

 

だが、しかし。

「飲もうよ!」と普通に連絡したところで、おそらく返信はこないだろう。

 

ならば、私にできることはただひとつ。

 

自爆だ。

 

どうせ記憶から消えてしまうなら、「変な女に会った」と思わせたかった。

 

Yutaと私はコーヒーを飲みながら、本の話をたくさんした。

 

「また小説を書きたいなと思っていて、ネタを探してるんだよね」

 

そう言った私に、Yutaは「僕が最近面白いと思ったのは…」と、物語の種になり得る話題を提供してくれた。

 

あれだ。

あれしかない。

 

私は翌日の夜、一時間で小説のプロットを書き上げ、Yutaに送信した。

 

逆の立場だったら、だいぶキモいと思うだろう。

でも、それでいいのだ。

 

案の定、返事はなかった。

 

「この間Tinderで会った子から、小説のプロットが送られてきたんだけど、キモくない?」

 

彼がいつかのお昼休み、ネタとして同僚にそう話してくれたなら。

Tinder芸人冥利に尽きる。

 

悔しいけど、本当だよ。