食品ベンチャーCEO、34歳。
<世界一周しました。
散歩仲間、カフェ仲間探してます。>
顔は決してイケメンではないが、メガネと金髪でうまいこと誤魔化している。
さながら、縮毛矯正したVaundy。
海外は私もかなり行っているので、話が合うかもと思い、平日の朝に会ってみることにした。
私が指定した喫茶店に着くや否や、連絡が入った。
時刻は午前9時ちょうど。
<すみません!会議が長引いちゃって、いま家を出ました。30分くらい遅れます。本当ごめんなさい!>
この時間に会議が終わるとは…?
海外のクライアントか?
私もその日は午前中に会議があり、10時には出ると伝えてあった。
<あんま時間なくてごめんだけど、お待ちしてます>
きっかり30分後に現れた縮毛Vaundy(黒髪ver.)は、写真よりも小太りな、いかにもごはんを美味しそうに食べそうな男だった。
「お待たせしてすみません~!」
椅子に座り、テーブルの上に置かれた彼の手を見て思った。
クリームパンみたい。
「こんな朝早くに、何の会議…?」
「出資してくれる候補者です。相手がトレーダーだと、9時に株取引が始まるからそれより早い時間が多いんですよ」
彼はいま会社を立ち上げて間もない状況で、これから商品を作るにあたり、出資者を募っているらしい。
商品について聞くと具体的なアイデアを語ってくれたが、私はターゲット層とかけ離れていたため生憎「ほほぅ」という感想しか出てこなかった。
「もともと食品関係だったの?」
「はい。新卒で食品会社に入って長く働いてました」
縮毛バウの経歴はこうだった。
地方の国立大学を出た後、地元の食品会社に入り営業を10年。
退職してバックパッカー的なことをしている最中、新商品を思いつき、これからひとりで作っていこうとしている、らしい。
「収入は今のところゼロだから、副業でウェブ周りの仕事もしてます」
CEOと一口に言えど、先日のあのお方↓のような超人もいれば、彼のような人もいる。
起業のリアルは、きっとほとんどが目の前にいる彼だ。
「海苔子さんはどういう経歴?」
私が自分の仕事の話をすると、彼はものすごく興味をもって聞いてくれた。
それは嬉しかったのだが、質疑応答を繰り返す中で私はうっすらと思い始めていた。
なんかこの感じ。
採用面接っぽくね?
ひと通り話し終えると、バウは真顔で言った。
「海苔子さん。事業が軌道に載ったら、PR部門として弊社に来てくれない?3年後くらいに」
前前前世ならぬ、内内内定。
「あはは、とりあえず条件だけ聞きに行くね」
少し作業してから帰るという彼を残し、私は会議のために喫茶店を出た。
私はこのブログを「この人が今の旦那です。」という一文で終わらせることを夢みているが、転身する日の方が近いのかもしれない。
「アラサー独身女が顔を出さずにTinderで転職した話」
どんな人生だよ。