学歴逆詐称ニキ

外資コンサル勤務、34歳、名前はミヤム(仮)。

出身大学は私と同じで、美容師のインスタに載ってそうな構図の横顔はハーフっぽい男前だった。

 

<天使見つけちゃいました😇タイプです!>

 

手当たり次第に定型文を送る輩は、顔を出していない私にもこの手のメッセージを送ってくる。

 

私は例によって、Tinder大喜利に参戦した。

 

<すみません、翼はメルカリで買った偽物です>

 

<笑 いくらでした?>

 

中身のないラリーをしばし繰り返した後、ミヤムは言った。

 

<よかったらお茶しない?いま転職の合間で暇だから、時間も場所も合わせるよ>

 

多分ロクでもない奴だろうな★

 

私はそう予想しながらも、同じ大学を出ている親近感、そしてエリアを合わせてくれたこともあり、最寄りの喫茶店でミヤムに会うことにした。

 

現れたミヤムは、どことなく業界人風の装いだった。

白いデニムにスカイブルーのシャツ、シャツのポケットに挟んだサングラス、黒い革靴。

そして眉毛…うーん、描いてるな?

 

あー苦手なタイプだ。

早めに切り上げよう。

 

「学部どこだった?実は私もXX大で」

 

私は唯一の共通の話題として、大学の話を振った。

 

「あ、そうなんだ。経済学部だよ」

 

「サークルは?」

 

「えー、っとね…」

 

歯切れの悪くなるミヤム。

 

「ごめん、本当は東大なんだよね。東大って書くと引かれるかなと思って詐称してる」

 

逆詐称キタ――(゚∀゚)――!!

 

自分の出身大学を下位互換に使われ、ネット死語が脳内を飛び交うくらいに私の心は死んだ。

 

だがこれは、ミヤムにしても想定外の事態に違いなかった。

 

「海苔子ちゃんは、Tinderで会うの何人目?」

 

何事もなかったかのように仕切り直すミヤム。

 

「70人ちょっとDEATH!」と答えたい気持ちをグッと堪え、私は堂々と詐称した。

 

「4、5人かな」

 

「そうなんだ。Tinderって、変な人多くない?」

 

その変な人の代表格が、いま目の前にいるのだが?

 

「うん、まぁ。笑 ミヤムさんは何人くらい会った?」

 

「海苔子ちゃんで二人目。前回会った子がひどくてさぁ~」

 

ミヤムの長い話をかいつまんで言うとこうだった。

 

すげぇ美人とマッチし、会うことになった。

駅で待ち合わせたが、合流するや否や「行きたい店がある」と言われ、連れて行かれたのがホテルのラウンジ。

まぁお茶ならいいかと思い入店すると、彼女は高い食事を平然と頼み、お会計の時にはスマホを見て知らん顔。請求することもできず、自分が1万2000円支払った。

 

「確かに綺麗な人だったけどさ、ああいうのってやっぱり全然惹かれないよね」

 

多分。

多分だが。

彼女も、お前に全然惹かれなかったから、そういう態度をとったのだと思うよ。

元からメシモクだった可能性もあるけどな。

 

私は話題を変えた。

 

「次の仕事がコンサル?前は何してたの?」

 

「親の会社で、輸入業。父親が定年退職して俺が社長になったんだけど、仕事自体はもう他の社員に任せてるから名ばかりで。暇だし、もうちょっとキツい環境で働いてみようかなってコンサルに行くことにした。社長としての給料はずっと入ってくるから、別にお金は気にしてないんだけどね」

 

コンサルの友人に今のセリフを聞かせたら、全員発狂するだろう。

 

私はもはや、メシモクTinder女に「よくやった!」と拍手を送りたい気持ちになっていた。

 

45分ほどミヤムと話した後、「会議が始まるから」と嘘を吐いて私は席を立った。

千円札を渡すとミヤムは受け取り、きっちりお釣りの小銭を返してきて、店員に小声で伝えた。

 

「領収書ください。宛名は空欄で」

 

ちっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ

 

交際費(広義)かよ。どんな会社だよ。

 

私はミヤムの会社が、マジで傾く5秒前であれと願った。