こじらせすぎた高橋一生

東大院卒、コンサル、30歳。

顔写真はないが、182cm/65kgというスタイルの良さをアピールしてあった。

プロフィール文は真面目で、どう見てもヤリモクの類ではなさそうだ。

 

<XXXってカフェに行きませんか?>

 

以前も書いたが、チャットの1-2投目で会いませんかと打診してくる奴はたいてい微妙である。

ましてやこいつは顔がわからない。

 

通常であれば無視案件なのだが、私はその週末、ひとりで美術館に行く予定があり、提案されたカフェが奇跡的に美術館のそばだった。

 

どのみち近くでお昼食べようと思ってたし、時間合わせてくれるならあり…?

 

そう思った私は事情を説明し「土曜12時なら可」と伝えると、彼は快諾した。

 

早く着いて待っていると、黒ずくめファッションに身を包んだ男が、高そうなチャリに乗って現れた。

顔は高橋一生を12発殴った感じだが、スタイルが良いので想像より雰囲気はイケている。

 

一生は開口一番、私に尋ねた。

 

「展示どうでした?」

 

彼はデザイン全般に造詣が深いようで、私が感想を伝えるとずんずん話を掘り下げてきた。

はじめは知識量に感心して聞いていたが、5分ほど経って気づく。

 

話が長すぎる。

教授か。

 

私は話題を変えた。

 

「仕事はコンサルなんだよね?デザイン系にはいかなかったの?」

 

「最初はデザイン事務所でグラフィックデザインやってました。でも、なかなかブラックで」

 

「まぁ、あの業界はそうだよね。コンサルは楽しい?」

 

何の気なしに聞くと、流暢に喋っていた一生はしばし黙り込んだ。

 

「ごめん、嫌なこと聞いた?」

 

「いえ、ちょっと考えていて。今のクライアントがXXXなので~~~という意味では自分の理想は叶ってるとは思うんですけど、△△△が~~~すれば~~~だし(以下略)、」

 

長い。

 

「~~~という意味では、まあ楽しいと言えますかね」

 

3文字を聞けば、3分返ってくる男らしい。

 

「あのさ、長いよ笑」

 

「すみません。こじらせてるってよく言われます」

 

でしょうね。

 

「音楽は聴く?」

 

「歌詞のある曲はノイズなので、クラシックかジャズばかりですね。あとは、散歩しながら鈴木敏夫ポッドキャストを聴いてます」

 

「へぇ。ジブリ好きなんだ」

 

「いや、ジブリは別に」

 

「え?」

 

鈴木敏夫が好きなんですよ。ジブリじゃなくて」

 

「乃木坂は興味ないけど秋元康が好き、みたいなこと?」

 

「そうです」

 

そうなのかよ。

 

すまん一生。

私、ジブリはほとんど観てるけど、鈴木敏夫の引き出しは空っぽだ。

 

会話は終始そんな感じで、私はことごとく彼の話を広げることができなかった。

でも多分、悪いのは私ではなく、こじらせすぎた一生である。

 

一生はランチをご馳走してくれて、後日<これ聴いてみてください>とSpotifyのリンクが3つ送られてきた。

 

なるほど、鈴木敏夫ポッドキャスト神回か。

興味深い。聴いてみよう。

 

最初のリンクを開くと、タイトルに「後編」と書かれていた。

 

<何で後編なの?>

 

<後編の方が面白いので>

 

私は律儀に鈴木敏夫ポッドキャスト神回を全て聴いたが、その後、私が鈴木敏夫のべしゃりにハマることもなければ、一生から連絡が来ることもなかった。

 

話は冒頭に戻るが、チャットをすっ飛ばして会いましょうと打診してくる奴は、たいてい微妙である。

彼らは、こじらせお喋りモンスターの可能性が高い。