<こんにちは。スタバに行きましょー😆♪>
前にも書いたが、私は文末に音符をつける人がとても苦手である。
だからこんなメッセージが来れば普段は無視するのだが、プロフィールを見ると彼はモンゴル人。
しかも正統派イケメンだった。
31歳、メーカー勤務、名前はチンギスハン(仮)。
日本に来て4年目で、趣味で御朱印を集めているという。
「文化の違い」の一言で、多くの違和感を帳消しにしてしまう外国人。
ちょうど週末に暇を持て余していたこともあり、会ってみることにした。
私が指定した喫茶店で待っていると、写真のままのイケメンが現れた。
4人がけのボックス席。
感染症対策のために斜向かいに座るよう、あらかじめ席に記されたバツ印を無視し、私の真向かいにドカっと座るチンギスハン。
私がはっきりした発音で「こんにちは」と挨拶すると、彼は
「初めまして、チンギスハンです」
訛りはありつつも、いたって流暢な日本語で返した。
コーヒーを飲みながら会話をする最中、チンギスハンは両腕をテーブルに置いた前のめり姿勢で、私は彼のパーソナルスペースに若干の違和感を覚えた。
あの、ちょっと、近い。
「日本語が上手だね。どうやって勉強したの?」
「3歳の頃からNHK観て勉強して、学校でも習ってました。モンゴル語、日本語、英語、あとロシア語も話せるよ」
「ロシア語?」
「そう。モンゴルとロシアは近いから、話せる人けっこういる。僕のお父さん、モスクワ大学の教授だった」
モスクワ大学ってロシアでいう東大だよな?
おそらく彼は、いいとこの子なのだろう。
彼はモンゴルで生まれ育ち、大学も出て就職したが、転職を考えた時、「なんとなく」日系企業を受けてみたという。
そしてスカイプ面接で内定を勝ち取り、一度も行ったことのない日本へいきなり移住することになった。
「それまで日本に来たことなかったんだ?勇気あるね。じゃあTinderは友達作りのため?」
「いえ、彼女探しです」
若干恥ずかしそうに言うチンギスハン。
「日本人と付き合ったことあるの?」
「あります。友達にラウンドワンに行こうって誘われて行ったら、女の子が2人来ていて。4人で遊んだ帰り道、そのうちの一人からインスタのDMがきて…」
あの、詳細は聞いてなくてよ?
それから私は、オチのない元カノ話を10分ほど聞かされた。
「…だから新しい彼女がほしくてTinder始めて、まだ1週間くらい」
「そうなんだ。会うの、私が初めて?」
「そうですね」
経験上、外国人(特に欧米人)は、「顔を出さない」という行動の真意を理解しない。
彼らは「顔を出すのが恥ずかしい」というシャイなジャパニーズピーポーの感覚がわからないらしい。
だからモンゴリアンの彼が私に興味を示したのも、てっきり日本語の練習相手か、友達候補としてだと思っていた。
「でも私、顔出してないし、チャットもそんなにしてなかったじゃん?何で会おうと思ったの?」
「近かったから」
わしゃバイト先か?
無言のツッコミを察したのか、チンギスハンは慌てて付け足した。
「あと後ろ姿の写真見て、髪型が好きだった」
その時、テーブルの下で、チンギスハンの足と私の足がぶつかった。
するとチンギスハンは突然、右手を差し出した。
「モンゴルでは足がぶつかった時、握手する文化があるんです」
ほんまかいな?
私は内心疑いながらも苦笑いで握手に応じた。
※家に帰り、あの文化の真偽を探るべく調べたところ、ガチでした。
疑ってごめんよ、チンギスハン。
【参考】
https://nomadicsoulcrafts.com/blogs/nomadic-soul-blog/step-on-someones-toes
翌日。
チンギスハンからLINEが届いた。
<海苔子さん、モンゴル料理を食べに行こう😆♪>
モンゴル料理かぁ…
ごめんチンギスハン、惹かれぬ。
<まだシフト出てなくて。時間ありそうだったら連絡するね!>
言うまでもなく、私はフルタイムで働く土日祝休みの会社員である。
でもそう返信するしかなかった。
だってバ先なんだから。