外資系コンサル会社に勤める男、名前はフミヤ(仮)、33歳。
出身大学は私と同じで、プロフィールには好きな酒の銘柄や、コーヒー、ファッションといったキーワードが並んでいる。
デニムと白Tのあえてラフな服装でプロが撮った写真は、まるでスタートアップ企業の創業メンバーのようだ。
メッセージ上のフミヤとは軽い恋愛ネタを挟めるくらいノリが合い、家が近かった私たちは、すぐに近所の海鮮居酒屋で会うことが決まった。
当日。
早めに着いた私は、フミヤへの期待を抑えきれずソワソワしながら待った。
「海苔子ちゃん?」
声をかけられて振り向く。
そこには、写真から爽やかさを完璧に削ぎ落としたキモめの男性がいた。
思ってたんと違ーーーう!!!
骨格は確かに同じなのだが、あまりの雰囲気の違いに呆然とする。
第一印象で無理だと思った。
だけど、あくまで出会いはTinder。恋愛目的に限らないのだから、近所の飲み友達候補として接すればいい。
実物のフミヤはメッセージと違い恐ろしくテンションが低く、最低限の受け答えしかしないつまらない男だった。
そして、1分に1回くらいのペースで、目をギュッと瞑って眉間に皺を寄せ、顔のパーツを中心に集める奇妙な癖があった。
なんそれ!
毎分クシャクシャになる顔を見るたび、脳内でZAZYが再生された。
私はフミヤに嫌悪感を抱きながらも、社会人のマナーとして会話を続ける努力をした。唯一明らかな共通トピックとして大学の話を振ると、フミヤはふっと笑ってこう言った。
「すごい大学のこと聞いてくるじゃん(笑)」
てめぇが喋らないからだろうがボケ!!!!!!
ここで大学の話題という選択肢を消された私は、メッセージでそこそこ盛り上がった恋愛の話を振ることにした。
フミヤはあっさりとこう言った。
「彼女は邪魔だからいらないなー。結婚願望もないし。Tinderで会った子とヤれてるから、それで十分」
私は耳を疑った。
百歩譲ってフミヤがイケメンならその発言も頷けるのだが、お前、控えめに言って下の上だぞ?
「海苔子ちゃんは結婚願望ある?」
珍しく会話を広げようとしてきたフミヤ。
私はメッセージで過去の恋愛について少しだけふれており、フミヤが<その話、気になるから会った時に詳しく聞かせてよ>と返信をくれていたことを思い出し、エピソードを交えながら話した。
ところが話しても話しても、フミヤには一切のリアクションがない。
きつい。
だんだん、人ではなく岩に向かって話しているような気持ちになった。
私が話し終わるとフミヤはようやく口を開き、こんな感想を述べた。
「海苔子ちゃん、よくそんな他人に興味がもてるね。俺は他人に興味ないから、すごいなって思う」
じゃあお前、何でいま私と一緒にいるんすか?
怒りの疑問をグッと堪え、少しでも空気を変えようとフミヤの話を深掘りした。
もう何年も彼女はおらず、完全なるヤリモクでTinderを利用し、これまで会った20人弱の女性とは70%くらいの確率でヤれているとのことだった。
私は心底、彼女たちに問いたいと思った。
こんなつまらないブサイクで満たされるの?と。
割り勘で会計を済ませて解散し、歩いて帰宅すると、居た堪れない気持ちになった。
おそらくフミヤは本来もう少しマシな人間だが、私を「ヤれない女」と認識した瞬間、省エネモードに突入してしまったのだろう。
私たちは世間から高学歴といわれる大学を出ている。
だけど、フミヤと同窓であることが情けなくてたまらなかった。
こんな高学歴はクソだ。
そんなお題があったら、私は黙ってフミヤを差し出すだろう。
笑いは要らない。ただ、彼が毎分顔のパーツを中心に寄せる瞬間、ご唱和ください。
なんそれ!