【番外編】女ラーメン雑誌編集者

近所に気の合う女友達ができたらいいな、という淡い期待をもって、Tinderで真剣に女性を探してみたことがあった。

 

驚いたのは、<同性の友達を探しています>と書いている女性の多さ。

もっと驚いたのは、男性と比較した時のマッチのしなさ。

もっともっと驚いたのは、プロフィールがつまらない女性の多さだった。

 

ディズニーが好き、おいしいものが好き、楽しいことが好き。

これら全て「地震が嫌い」などと一緒で、何も言ってないに等しい。

 

結果、私が興味をもてた女性はほんの数人しかおらず、その中でも会うに至ったのはただ一人だった。

 

互いの家の距離は3キロ、名前はサヤカ(仮)、32歳。

<夜、今からファミレスで一緒に作業しない?と誘えるような、近所の同性の友達を探しています!>

プロフィールにそう書いていた彼女は、私と同じ編集者だった。

 

<最近のメインはラーメン雑誌ですね>

サヤカはラーメン雑誌が似合うふくよかな体型で、いかにもヤリモクに狙われそうな可愛らしい顔をしていた。

自宅の本棚の写真を載せていた彼女の選書を見て、話が合うだろうという確信をもった私は、近所のベトナム料理屋でランチをしないかと誘った。

すぐに日程が決まり、天気が良い日だったので私は自転車を走らせた。

 

道中、あまりの心の軽さに、羽ばたいていけそうな気がした。

男性と会う時とは緊張感がまるで違うのだ。

自転車をこぎながら、「Tinderあるある早く言いたい~♪」というオリジナルソングを口ずさみそうになった。

 

サヤカとは初対面と思えないほど会話が弾み、ベトナム料理屋の後はカフェに移動してコーヒーを飲んだ。

私がこれまでTinderで会った奇人エピソードを披露すると、サヤカはぽつりと呟いた。

 

「海苔子ちゃん、すごいなぁ。私は女友達探す専用にしてて、男性は表示さえしてないんだよね」

 

「どうして?彼氏ほしくないの?」

 

「いや、ほしい。でもTinderヤバい人しかいないって聞いたから、それは別のアプリで探してる」

 

サヤカはそう言って、同時進行で使っている他の3つのマッチングアプリを見せてくれた。

 

「3つも!笑 こっちでは何人か会った?」

 

聞くと、「一人も会ってない」と言う。

 

「Tinderと違って、この3つは加工した写真使ってるんだよね。私、角度詐欺うまくてさ。実物見たら絶対がっかりするよなーと思ったら、会う勇気が出なくて」

 

角度詐欺という言葉を、私はこの日、初めて知った。

 

「その写真、見たい」

 

サヤカがテーブルの上にスマホを滑らせる。

受け取って見ると、サヤカとは似ても似つかないスリムな美女が微笑んでいた。

 

私がスマホの画面と目の前のサヤカをジロジロと見比べていると、「見すぎ」とサヤカは笑った。

 

「でも、Tinder悪くないよ。サヤカさんのあの写真のままでもマッチすると思う。ヤバい人多いけど、10人に1人くらいはまともだし」

 

「いや、少なっ!」

 

そうして私たちは、アプリや仕事の話を4時間もして、連絡先を交換して別れた。

 

サヤカは出版社で働きながらフリーでライターの仕事もしており、一人暮らしにも関わらず定期的にお手伝いさんを雇っているほどの激務をこなしていた。

 

とても良い友達になれそうな気はしたが、忙しすぎる彼女を遊びに誘うのは気が引けたし、その後、時間に余裕のない彼女からお誘いが来ることもなかった。

 

<夜、今からファミレスで一緒に作業しない?と誘えるような>

 

これができる関係性は尊い

なぜならそれは、信頼関係があって初めて成り立つものだから。

信頼は、一日では築けない。

 

知り合ったばかりの人と信頼を築くには「定期的に会って話す」という期間がどうしても必要で、その機会を創出するには、「どちらかがマメであること」が必須条件である。

 

残念ながら私はマメな人間ではなく、サヤカが忙しすぎたこともあり、もう1回話したいなーと思う気持ちはあっても、なかなか2回目には繋がらないのであった。

 

結論、Tinderで同性の友達を作るには、意外と努力が必要です。