東大卒、IT企業のエンジニア、28歳。
グレーのジャケットを羽織り、オシャレなカフェでラテ的なものを飲む顔の濃い男は、年下にも関わらず最初から私にタメ口でテキストを送ってきた。
しかし、ハーフ顔の彼の雰囲気がそうさせるのか、全く不快ではない。
なんならすぐに仲良くなれそうだ。
そう思い、新宿の喫茶店で会うことになった。
黒Tシャツに黒デニム、黒スニーカーという、黒ずくめの組織もびっくりのコーディネートで現れた彼は身長が低く、写真で見る以上に顔が濃かった。
小島よしおを煮詰めて水分を飛ばしたら、こんな感じになりそう。
はい、オッパッピー。
そんな第一印象を経て向かい合って座ると、彼のTシャツの腹のあたりに、白い文字で英語が書かれていることに気づく。
NEVER
続く下の文字は、テーブルで隠れて見えない。
NEVER…何なの?
GIVE UP?
ENDING STORY?
やばい。気になる。
コーヒーを注文して待っている間、私は背筋を伸ばしてTシャツの文字を読もうとしたが、どう頑張っても見えない。
というか、東大を出るだけの英語力がありながら、そういうTシャツを平然と選ぶセンスが解せぬよ、私は。
諦めて、よしおの経歴を尋ねる。
「地元は福岡で、XXX大学出て、東大の院を出て、新卒から△△△(大手IT企業)で働いてる。東京6年目なのに全然慣れないんだよね。新宿って出口多すぎじゃない?」
よしおが出ている大学は、地方の国立大だった。
地方の国立大学から東大院に入ることを学歴ロンダリングと揶揄する人がいるが、私は大学自体がそこそこ優秀ならば全く気にならない。
が、しかし。
「学歴:東大」
ドヤ顔でこう表記するのは、ちょっと違うと思うのだ。
「院」をつけないのは、確信犯ではなかろうか。
黒ずくめの組織だけに。
よしおは東京に友達が少ないようで、さまざまな目的で複数のマッチングアプリを使い分けていた。
「例えばこれは、バスケ仲間を集める専門のやつ」
マッチングアプリってそんな細分化されてるのか、と驚きながら説明を聞く。
Tinderは何用なのかと若干気になったが、よしお自体に興味を失っていた私は深掘りをせず、「そろそろ行こうか」と退店の空気をつくった。
よしおが立ち上がった瞬間、Tシャツの文字が見えた。
NEVER
MIND
…何を?
学歴なんて気にするな、というメッセージだったのだろうか。
もしOCEAN PACIFIC PEACEと書かれていたなら、私はもう少しよしおに興味をもてたと思う。
はい、オッパッピー。