有名美大卒、IT企業勤務、33歳、身長180センチ。
King Gnu井口理を彷彿とさせる、銀縁の眼鏡をかけたオシャレな男とマッチした。
<バツイチ子なし。理由は話せます>
プロフィールにそう書いていた井口は、顔を出していない私をいきなり美術展に誘ってきた。
<これ、よければ一緒に行きませんか?>
続くURLをクリックすると、奇跡的に私の家の近くで開催されている。
面白そうだったので快諾し、合わせて行くことになるであろう喫茶店の候補を2つ送った。
すると、井口からこう返ってきた。
<美術展の前と後で、両方行きましょう>
いや待て。
美術展と喫茶店2件というフルコース、相手次第ではキツい。
そう思った私はこう返した。
<オッケー(1件目が死ぬほど盛り上がらなかった場合を除く)>
当日。
待ち合わせの喫茶店に現れた井口はモノトーンファッションに身を包み、予想以上に背が高く威圧感があった。
「身長180って書いてたけど、絶対それよりあるよね?」
尋ねると、井口はあっけらかんと答えた。
「うん、184」
身長を下にサバ読む男、SMAP中居くん以外で聞いたことねぇ。
井口は続けた。
「180も184もあんまり変わらないでしょ?」
解・せ・ぬ。
微妙な違和感を覚えつつ、私たちは喫茶店で軽くお昼を食べ、歩いて美術展に向かった。
小さな古民家ギャラリーで開催されているそれに、井口の美大時代の友人が作品を出しているという。
「いま、その友達が在廊してるっぽいんだよね」
道中でインスタを開きながら、さらりと言う井口。
それ…私も挨拶する流れっすか?
お前と私の関係性を、どう説明したらいいんすか?
頭の中が疑問でいっぱいになったが、流れに身を任せることにした。
展示は面白く、現役の作家である井口の友人もいい人だった。
井口は作家と軽く立ち話をした後、私を紹介した。
「こちら…友達の海苔子さん」
ト・モ・ダ・チ。
出会って1時間、E.T.も驚愕のスピードである。
1件目の喫茶店も、美術展もそこそこ盛り上がったため、予定通り2件目の喫茶店に入った。
井口は先ほどの作家の友人と過ごした、大学時代の写真を色々と見せてくれた。
卒業後、井口はデザイン事務所勤務を経て、現在はベンチャー企業で人事のような仕事をしているという。
「芸術の道はもういいの?」
「うん、やりきったから、あとはもう趣味でいいや。いま盆栽アートにハマってて、これをネットで売りたいと思ってるんだよね」
今度は、エキセントリックに飾った盆栽の作品の写真を見せてくる井口。
私は完全に、かつて遭遇したヤリモクのインテリアデザイナー(以下)を思い出していた。
奴もまた、オリジナルのオブジェを制作し、それをフリマアプリで売ったりしながら起業の夢を語っていたからだ。
(なぁ、本当はアーティストになりたいんだろう?)
そう思ったが、その質問は開けてはならない扉のような気がして、
「いいね。売れそう」と簡単に褒めて喫茶店を出た。
離婚理由については、なんとなく弄ってはいけない雰囲気があり、結局何も聞けなかった。
私たちがトモダチになるには、まだ早すぎたようだ。