10年来の友人と結婚する世界線の話⑥

何もかも、異動のせいだ。

 

私は人事部を心の底から憎んだが、もう大阪に来てしまったからしょうがない。

 

楽しむ努力をしよう。

 

そして私は気持ちを切り替え、4月の終わりにはネットで見つけた謎のオフ会に顔を出していた。

※当時、まだマッチングアプリをやっている人はほとんどいなかったが、Facebookなどでオフ会の宣伝を見かけることはよくあった。

 

古い引き出しもたくさん開けた。

 

大学時代、ボリビアを旅していた時に知り合った日本人女性が関西にいたことを思い出して再会したり(彼女は後に親友になった)、連絡先さえ知らない高校の同級生が大阪にいると噂で聞けば、Facebookで友達申請をしてから飲みに誘ったり、とにかく必死で頑張った。

 

すると、友達が何人かできた。

 

仕事も徐々に慣れてきて、慣れてしまえば本社よりはるかに楽しかった。

 

大阪ならではの芸人取材が何度もあり、熱烈なファンだったジャルジャルの二人と話せた時は「あぁ、このために私は異動になったんだわ」と勝手に納得した。

 

そうしてバタバタと半年が過ぎた頃。

 

久しぶりにタクヤから電話がかかってきた。

 

「何?」

 

あえて雑な第一声を放つと、タクヤは「冷たくない?」と言って笑った。

 

半年前、私がどれだけ傷ついたと思ってんだよ。

許さねぇからな!!!

 

そう思いながらも、何の用かと話を聞いた。

 

「◯月◯日から、訓練に行くことになった」

 

パイロット採用の同期が数十人いるため、海外訓練は何段階かに分けて投入されるらしかった。

自分がいつ呼ばれるかわからない、早く行きたいと、タクヤは以前からそう言っていた。

 

「やっと決まったんだ。よかったね」

 

「うん。でさ、その前に国内で座学の研修が始まったんだけど、勉強が難しすぎてさ…」

 

それからタクヤは、いかに研修の科目が多く難易度が高いかと愚痴をこぼし、弱音を吐いた。

 

「周り東大とか出てる人ばっかりなんだよ。それに俺、文系なのに航空力学とかマジでわかんなくて、もうついていける気がしない」

 

おい。

いつまで学歴コンプ引きずってんだよ。

そこまでいったなら努力するしかねぇだろ。アホか。

 

てかお前にとって私は何なんだよ。

私が一番つらい時は突き放したくせに、自分の都合のいい時だけ電話してくるのかよ。

ただの吐け口か???

は???

 

頭の中に罵詈雑言を浮かべながら、しかし私は、こんな時でさえ計算高かった。

 

一瞬であらゆる可能性をシミュレーションした。

 

いま優しくしておけば、後でリターンがあるかもしれない。

やっぱりいい女だったと、どこかでふと思い出すかもしれない。

 

タクヤなら、絶対に大丈夫」

 

私は力強く言った。

 

タクヤは努力家だから。~~の時も、XXの時も、誰よりも頑張ってたじゃん。私、そういうところ、すごい尊敬してるよ」

 

「…ありがとう」

 

え、素直だな。

 

「またかけるわ」

 

彼はそう言って電話を切った。

 

スマホを置いて冷静になると、じわじわと喜びが溢れてきた。

 

終わってなかった。

 

まだ、終わってなかった!!!

 

それから、週3回とまではいかずとも、たまに電話がかかってくるようになった。

 

彼も勉強が忙しかったので無言で繋ぐあの時間はもうなく、弱音を吐かれては励ますだけの、応援団的な役割でしかなかったが、それでも嬉しかった。

 

さらに半年が過ぎた頃。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「頑張って」

 

出国直前に電話でそう話し、彼は旅立って行った。

 

続く。