10年来の友人と結婚する世界線の話⑦

海外訓練は2年と聞いていた。

 

時差があるうえ、現地では寮生活ということもあり連絡はぱったり途絶えたが、半年に一回くらいのペースで「久しぶり。元気にしてる?」的なLINEが届き、たまに短い電話もした。

 

私はそのたびに「忘れてほしくないんだな、ふふふ…」と思い喜んでいたが、一方で、大阪に新しい彼氏ができた。

 

あれほどつらかった大阪での日々は、最高に楽しいものになっていた。

仕事も恋愛も絶好調で、このまま東京に戻らず、大阪で生きる人生もありなのでは?とまで考え始めていた。

 

あっという間に2年が過ぎ、タクヤは無事に海外訓練をパスして帰国し、国内で最後の研修を終えた。

 

最後に焼肉に連れて行ってもらった日から、3年以上が経っていた。

 

ある平日の、夜の11時くらいのこと。

私は風呂を済ませてパジャマに着替え、もうあとは寝るだけという状態で本を読んでいた。

 

すると、タクヤから着信があった。

 

「久しぶり。どうした?」

 

出ると、タクヤは私に尋ねた。

 

「いまどこにいる?」

 

「家だけど…何で?」

 

「今日、最後の試験に合格して、副操縦士になれた」

 

「えっ!おめでとう!」

 

彼が血の滲むような努力をしてきたのを知っていたから、素直に嬉しかった。

 

「ありがとう。それで今日さ、大阪ステイなんだよね」

 

心臓がドクンと鳴った。

 

「どこ泊まってるの?」

 

「XXXホテル」

 

「そこ、私の職場近いからランチ行ったことあるよ」

 

「じゃあ今から来ない?泊まって明日そのまま出社したらいいじゃん」

 

…え?

…えぇ!?

 

いやいやいや無理無理無理!!!

3年も会ってないのに、ホテルで再会は無理!!!

 

「さすがに無理だよ」

 

「何でよ。前はうちに泊まりに来てたじゃん。ベッド2つあるし、何もしないって」

 

泊まったところで、本当に何もないのだろう。

それはわかっていたが、いかんせん3年ぶりである。

 

彼が海外で激太りしてたり、ハゲてたりする可能性もある。

普通に怖い。

 

「ごめん無理。でもいろいろ話したいし、また大阪に来ることがあったら教えて。飲もう」

 

「わかった。大阪ステイ、今後ちょこちょこありそうなんだよね。また連絡する」

 

2週間後。

 

<◯月◯日、17時に伊丹着いて大阪ステイなんだけど、ごはん行かない?>

 

今度は事前にちゃんと連絡があり、私たちは3年ぶりに再会することになった。

 

私が予約したお好み焼き屋の前で待っている間、吐きそうなほど緊張した。

 

激太りしてませんように。

ハゲてませんように。

できれば彼女がいませんように。

 

そう祈っていると、こちらに向かって歩いてくる男が見えた。

タクヤだ。

 

え、なんか太ってない!?

 

それによって緊張がほぐれた。

 

「久しぶり。太った?笑」

 

「向こうで毎日パスタ作って食べてたら、10キロ太った」

 

彼は元々かなり痩せていたので、10キロ太ってもデブという感じではなかったが、3年前とのギャップに笑った。

 

「でももう帰国してだいぶ経ってるでしょ。体重戻らないの?」

 

「ほら、パイロットって座りっぱなしだからさ」

 

そうして笑いながら、3年ぶりの乾杯をした。

 

続く。