海外訓練は2年と聞いていた。
時差があるうえ、現地では寮生活ということもあり連絡はぱったり途絶えたが、半年に一回くらいのペースで「久しぶり。元気にしてる?」的なLINEが届き、たまに短い電話もした。
私はそのたびに「忘れてほしくないんだな、ふふふ…」と思い喜んでいたが、一方で、大阪に新しい彼氏ができた。
あれほどつらかった大阪での日々は、最高に楽しいものになっていた。
仕事も恋愛も絶好調で、このまま東京に戻らず、大阪で生きる人生もありなのでは?とまで考え始めていた。
あっという間に2年が過ぎ、タクヤは無事に海外訓練をパスして帰国し、国内で最後の研修を終えた。
最後に焼肉に連れて行ってもらった日から、3年以上が経っていた。
ある平日の、夜の11時くらいのこと。
私は風呂を済ませてパジャマに着替え、もうあとは寝るだけという状態で本を読んでいた。
すると、タクヤから着信があった。
「久しぶり。どうした?」
出ると、タクヤは私に尋ねた。
「いまどこにいる?」
「家だけど…何で?」
「今日、最後の試験に合格して、副操縦士になれた」
「えっ!おめでとう!」
彼が血の滲むような努力をしてきたのを知っていたから、素直に嬉しかった。
「ありがとう。それで今日さ、大阪ステイなんだよね」
心臓がドクンと鳴った。
「どこ泊まってるの?」
「XXXホテル」
「そこ、私の職場近いからランチ行ったことあるよ」
「じゃあ今から来ない?泊まって明日そのまま出社したらいいじゃん」
…え?
…えぇ!?
いやいやいや無理無理無理!!!
3年も会ってないのに、ホテルで再会は無理!!!
「さすがに無理だよ」
「何でよ。前はうちに泊まりに来てたじゃん。ベッド2つあるし、何もしないって」
泊まったところで、本当に何もないのだろう。
それはわかっていたが、いかんせん3年ぶりである。
彼が海外で激太りしてたり、ハゲてたりする可能性もある。
普通に怖い。
「ごめん無理。でもいろいろ話したいし、また大阪に来ることがあったら教えて。飲もう」
「わかった。大阪ステイ、今後ちょこちょこありそうなんだよね。また連絡する」
2週間後。
<◯月◯日、17時に伊丹着いて大阪ステイなんだけど、ごはん行かない?>
今度は事前にちゃんと連絡があり、私たちは3年ぶりに再会することになった。
私が予約したお好み焼き屋の前で待っている間、吐きそうなほど緊張した。
激太りしてませんように。
ハゲてませんように。
できれば彼女がいませんように。
そう祈っていると、こちらに向かって歩いてくる男が見えた。
タクヤだ。
え、なんか太ってない!?
それによって緊張がほぐれた。
「久しぶり。太った?笑」
「向こうで毎日パスタ作って食べてたら、10キロ太った」
彼は元々かなり痩せていたので、10キロ太ってもデブという感じではなかったが、3年前とのギャップに笑った。
「でももう帰国してだいぶ経ってるでしょ。体重戻らないの?」
「ほら、パイロットって座りっぱなしだからさ」
そうして笑いながら、3年ぶりの乾杯をした。
続く。