初対面ではなかった男

私と同じ大学を出て、IT企業に勤める青野(仮)という男とマッチングした。

年は30歳。

メッセージで聞くと、学年はおろか学部・学科・専攻まで全て同じだという。

そこまで絞ると100人程度のはずだが、私は青野に見覚えがなかった。

 

<XXXXとか○○○とか友達?>

 

青野が、私が今も付き合いのある友人の名前を挙げる。

一気に盛り上がった私たちは、すぐ飲みに行く約束をした。

 

待ち合わせ場所に着くと、青野はすぐ私に気づいて言った。

 

「あー、見覚えある!図書館の前とかによくいなかった?」

 

「いたかも。私も青野君、何かの授業で見たことあるような気がする」

 

え、こんなやついたっけ??

私は古い記憶を辿りながら、簡単な嘘を吐いた。

青野は男前ではあったが阿部寛のような濃い顔立ちをしており、同じ授業を取っていたなら忘れるはずがなかった。

 

連れて行かれた店は、青野の友人が経営しているという小洒落た居酒屋だった。

 

「初めまして、じゃないか?」

 

世にも奇妙な乾杯の挨拶を済ませ、私は青野に尋ねた。

 

「会社名聞いていい?」

 

大手IT企業の名前を挙げる青野。

 

「お、おぉう…」

 

私は狼狽えた。

 

「あ、もしかして、元彼と一緒とか?」

 

察しのいい青野に言い当てられ、詳細を聞かれたのでつい元彼の名前を口走ってしまった。

 

「Tinderやってるって知られたくないし、詮索しないでよ」

 

「大丈夫。名前も聞いたことないし、何万人と社員いるからまず会うことはないよ」

 

それから青野と、ほとんど大学時代の話をしながら3時間ほど飲んだ。

同級生という事実がそうさせたのか、恋愛に発展するような気配は一切なく、気の置けない飲み友達の空気感で、それはそれで楽しかった。

 

その日、家に帰った私は、久しぶりに卒業アルバムを開いた。

自分の個人写真が載っているページを開くと、たった3人を隔てて若かりし青野が笑っていた。

 

「Tinderで出会った人と結婚することになって、でも実は大学時代にもう会ってて、卒業アルバムの同じページに載ってたんだよね!」

 

そんなエピソードにできたら素敵だったのだが、ビビッとくる出会いなど、そう簡単に降ってはこない。

 

後日、私と青野は、それぞれ友人を連れて4人で飲むことになった。(要はコンパ)

会の中盤で4人の会話が2人と2人に分かれ始めた頃、青野が私に耳打ちした。

 

「会社で新しいプロジェクト始まってさ、今日の夕方に初顔合わせのミーティングがあったんだけど」

 

次の台詞が、分かった。

 

「メンバーに海苔子ちゃんの元彼いたわ」

 

運命的な出会いは降ってこない。

それでも私たちはみんな、どこかで繋がってしまっている。