水原希子がTinderのアンバサダーを務めた時、「おいおーい!」と思ったのは私だけではないはずだ。
彼女のインスタを見た中高生が「Tinderって健全なお友達作りアプリなんだ!」と勘違いをし、後々痛い目に遭わないか私はとても心配している。
そのくらい、Tinderにはヤリモクが多い。
私は後ろ姿の写真しか載せていなかったため、ヤリモクのターゲットになることはあまりなかった。
彼らもどうせ時間とお金をかけるなら、自分好みの女性を選びたいのだろう。
そんな私に熱心なアプローチをしてきた、ただ一人の例外の話。
有名美大を出ているインテリアデザイナー、名前は翔平(仮)といった。
180センチの高身長とセンスのいいファッション、一眼レフで撮ったオシャレな写真、薄く整った顔立ち、趣味は美術館めぐり、28歳。
あーモテるだろうな、とひと目で分かる彼は、なぜか顔の見えない私に会う前から猛アタックをしてきた。
マッチングして数ラリーのメッセージを交わした後、
<今日、XXで飲みませんか。海苔子さんのことをもっと知りたいです>
という、お手本のようなヤリモクの誘い文句が飛び出した。
土曜日の昼下がり、私は圧倒的に暇をもて余していたが、嘘をついた。
<予定あるから無理だよ>
<じゃあ夜に電話しませんか。これ僕のLINEです。よかったら追加してください>
軽い違和感を覚える。
お前はいくらでも選べる立場にあるだろう。なぜ私なのだ、と。
だから、正直に聞いた。
<なぜ顔を出さない女にそこまでガツガツする>※原文ママ
<知性のある人が好きなんです。海苔子さんの写真の雰囲気で、この人は絶対頭いいって思いました。美大で女性のデッサンをたくさんしてきたので、雰囲気で分かるんですよ>
もしや彼はヤリモクではなく、ただちょっと変わった人なのか?
芸術系って変わってる人多いしな?
そう思った私は、翔平のLINEを追加することに決めた。
夜、電話がかかってきた。
「こんばんは。翔平です」
声が低く、甘い。
「このアイコン、海苔子さんですよね?とっても美人ですね。しかも声も素敵です」
私が海外旅行先で撮った、ギリギリ本人と分かるレベルで小さく顔が写った写真を見て、彼はそう言った。
怖い。
よく知りもしないのに過剰に褒めてくる人間は、ロクな奴じゃない。
30年の短い人生の教訓が頭を掠める。
「海苔子さん、大学はどこでしたか?」
私が正直に答えると、彼は「やっぱり頭いいんですね」と嬉しそうに言った。
翔平は話がうまく、それはそれは上手に自分の情報を開示してきた。
これまでデザインを手がけたインテリアの写真を送り、仕事とは別に趣味で制作・販売しているオブジェの写真を送り、これをゆくゆくは本業にしたいと夢を語り、
「サイトを作る時は、海苔子さんをモデルに写真を撮って載せたい。文章も書いてほしいな。いいですか?」
と尋ねた。
私は「無理」と即答したが、それでも警戒心が徐々に溶けていくのを感じていた。
話すこと1時間半、
「そろそろ寝ないとですよね。次は飲みに行きましょう」
と誘われた。
私は快諾した。
なんせ、この1時間半の会話がとても楽しかったのだ。
待ち合わせは1週間後の土曜日の夜、錦糸町に決まった。
それから毎日のように翔平からLINEが届き、間に一度電話もし、前日の夜になってまた電話がかかってきた。
「声が聞きたくなって。明日会えるのに、すみません」
おいおーい!
独身アラサー女は、イケメンにそんなこと言われると嘘でも嬉しいぞー!
率直な感想を喉の奥に沈め、「冷静であれ」と呪文のように頭で唱えた。
翌日、錦糸町というホテルの多いエリアに若干の警戒心を再燃させながら、私は現場へ向かった。
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