競馬場で働く瑛太

青空の下で白馬に跨る、スラッとした男性の写真が目に留まった。

出身は北海道。瑛太に似た賢そうな顔立ちをしていて、年齢は30歳。

犬や猫を利用して好感度を上げようとする輩は掃いて捨てるほどいるが、なぜ馬

なんだか気になりマッチングすると、理由を教えてくれた。

 

<写真は実家の馬です。子供の頃は騎手を目指してたんですけど、身長が伸びちゃったので諦めて、今は競馬場で働いています!ちなみに、ギャンブルはやりません笑>

 

彼の身長は175㎝だが、騎手の平均身長は160㎝程度だという。

 

身長が伸びて絶望する少年が、この世界にいたなんて。

知らない価値観で生きる彼に興味を惹かれ、会ってみることにした。

 

新宿の焼肉屋に現れた瑛太は、休日にも関わらずカチッとした襟付きのシャツを着て、いかにも好青年といった感じだった。

育ちがいいのだろう。(だって実家で馬飼ってるし)

 

焼肉を食べながら、経歴を尋ねた。

 

「北海道で生まれ育って、大学はXX行って、新卒で競馬場に入りました」

 

彼が卒業したという都内の私立大学は、地方から下宿して通うレベルの学校ではなかった。

 

「何でわざわざ東京の大学に?」

 

「あ、すみません、ちょっと端折りました。本当は最初、騎手を目指す人の専門学校に通ってたんです。だけど身長のハンデに加えて足を怪我したこともあって、1年で辞めて、一般の大学に入り直した形です」

 

猛烈になりたい職業があって、それを目指し、努力して、挫折する。

その全てを経験したことのない私は苦しみを想像することしかできないが、目の前の彼に心から同情した。

 

現在は競馬場の広報的な仕事をしているという瑛太の話はなかなか面白く、楽しく2時間ほど飲んだ。自然な流れで2軒目に行く形になり、瑛太は伝票を持って立った。

 

「ここは俺が払うので、次お願いします」

 

あらいいじゃない、紳士。

 

ところが好感度が上がったのも束の間、その後に適当に入ったバーで、瑛太は信じられない勢いで酒を飲み続けた。

 

「あの、大丈夫?(お会計が)」

 

私が言うと、呂律の怪しい瑛太はなぜか家族の話を始めた。

 

「俺、北海道で暮らす33歳の姉がいるんですけどね、最近4回目の結婚をしたらしいんですよ」

 

!?

 

「16歳の時に家出して、17歳で妊娠したって帰ってきて、すぐ結婚して離婚して、シングルマザーになって。その後も結婚離婚を3回繰り返して、それぞれの旦那との間に一人ずつ子供がいるから3児の母なんです。前の人でもう最後だろうと思ってたのになぁ」

 

女は、33歳でバツ3で父親の違う子供が3人いても(3が多いな)、再婚できるのか?

私はむしろそちらに興味を惹かれてしまった。

 

瑛太君のお姉さん、めちゃくちゃ美人なの?」

 

「俺はもう10年以上会ってないから最近は知らないけど、昔はあれ、何だっけグラビアの…」

 

…??

 

「そうだ、リア・ディゾンリア・ディゾンに似てるって言われてましたね」

 

久々に聞いたリア・ディゾンというワードに、ちょっと笑いそうになった。

 

瑛太が帰れなくなる前に引き上げねばと思い、会計をしようと伝票を見ると、1軒目より2千円ほど高かった。

 

8割は瑛太が飲んだ酒である。

何で私がお前より多く払わねばならんのだ?

 

瑛太の視界に入るようさりげなく伝票を置き直すと、会計が高いことに気づいた彼は財布から千円札を2枚取り出して渡した。

きっちり差額を払う、無駄な冷静さに苛立った。

 

それからというもの私は、「2軒目よろしく」と言う男がトラ馬です。