乗っ取られたインスタグラマー
一眼レフを首からぶら下げた、アイドルと見紛うほどのイケメンが目に留まった。
職業はクリエイター、名前は光一(仮)、29歳。
自身が撮影したのであろう、加工しまくった絶景写真が並んでいる。
<いろんな業界の話が聞きたいです!>
そう書くことで恋愛目的じゃないよ感を滲ませていた彼は、編集者という私の肩書きに興味をもったようで、積極的にメッセージを送ってきた。
クリエイターって結局なんやねん、と思っていた私もまた、彼に質問をした。
<フリーランスのカメラマンってこと?>
<色々やってますが、メインはそうですね。僕、インスタのフォロワーが7万人いるので、そこ経由で仕事がくるんです!>
アカウントを教えてくれたので見ると、プロフィールに載せていたのと同じような、彩度とコントラストをあげまくった写真が並んでいた。
例えるならラッセンの描くイルカのような、リアリティよりファンタジーな世界観に重きを置いた写真。素材よりも調理方法にこだわった作品群だった。
<加工技術すごいね。フォローしといたよ>
<ありがとうございます!以前、○○市と仕事した時はあの写真を~~して、XXXXX(カメラ会社)の講演に呼ばれた時は、2000人の前で話したりもしました!>
7万人のフォロワー。
市区町村からの仕事。
2000人の前で講演。
聞いてもないのに、自分を大きく見せようとする文章が鼻につく男だった。
<海苔子さん、よければ一度お茶しませんか?>
私は快諾した。
多分こいつはアホだと分かっていたが、アイドルと見紛うほどのイケメンだったからだ。
渋谷のカフェに現れた光一は、後光が差しているのかと思うほど綺麗な顔をしていた。
しかし、太めボーダーのシャツが若干ダサい。
向かい合わせに座り、経歴を尋ねてみた。
「高校出て大学は一応入ったんですけど、在学中にインスタのフォロワーが増えてPRの仕事が来るようになったので、それを機に退学しました。最近コロナのせいで仕事が減ってきて、でももう家を買っちゃってて、ちょっとしんどい時期ですね」
なんと浅はかな人生設計だろう。
「海苔子さんの仕事の話、聞かせてくれますか?」
光一に爽やかな笑顔で言われ、私は正直に話をした。
前のめりの光一のリアクションを見て察した。
こいつ、あわよくば私から仕事をもらおうとしている!!!
話題を変えよう。
「もし何か依頼できそうなことがあれば言うね。ところで光一君は何でTinderやってるの?」
「自分がどうこうしたいっていうよりは人と人を繋げるのが楽しくて。例えばこの間は、ゲイの人と話してみたいっていう女の子がいたから、僕のゲイの友達を紹介したり」
想像しただけでしんどくなってしまった。
それは、ゲイの友達にとって何のメリットがあるのだろう。
「海苔子さんは何か困ってることとかありますか?僕、かなり人脈あるから力になれるかも」
「んー、いい男いないかな、とは思ってるけど」
「うんうん、どういう人がタイプ?」
「そうだねぇ…」
私が好きなのは、お前のくだらない誘いにホイホイ顔を出さない男だ。
そう思いつつ、適当な条件を挙げて適当に解散した。
数日後、インスタのフィードを眺めていると、見知らぬ韓国人の投稿が流れてきた。
不思議に思いプロフィールを確認すると、過去に投稿された写真からして確実に光一のアカウントだった。
なのに写真と名前、アイコンの写真が、謎の韓国人に入れ替わっている。
と同時に、光一からLINEがきた。
<インスタ乗っ取られました!いろいろ試しましたが、取り返すのは無理みたいです。。新しいアカウント作ったので、フォローお願いします>
ご愁傷様です、の思いを込めて、フォローしてあげた。
すっかりやる気を無くした彼のフォロワー数は、いまだに3桁である。