訳あり総合商社マン(後編)

前編はこちら↓

noriko-uwotani.hatenablog.com

 

そんなこんなで私は友人(以下A)と飲みに行くことになった。

 

Aと私は大学時代から何度もサシ飲みをし、何の躊躇いもなく互いの恋愛について報告し合える仲ではあったが、Tinderをやっていることを打ち明けるのは少々勇気が必要だった。

 

「崎山XX君って知ってる?」

 

仕事の話もそこそこに、私はAに尋ねた。

 

「え、崎山!同期だよ。いちばん仲良いくらいの。何で海苔子が知ってんの?」

 

「実は先週、Tinderで知り合ってさ。すごく素敵な人だったんだけど、正直ちょっと怪しいかもと思ってて。それでFacebookで検索したら、Aと写った沖縄旅行の写真出てきたから、どんな人なのか聞きたいなーと」

 

「お…おぅ…そっか」

 

急に歯切れが悪くなるA。

 

「え、なに?」

 

「ちょっと待ってね。えっと…」

 

Aはスマホで何かを探し始め、しばらくすると手を止めてこう言った。

 

「やっぱりそうだ。えっと、あのね、」

 

嫌な予感がした。

 

「俺、ちょうど1週間前に、崎山から結婚式の招待がきてた」

 

ゴーン、と鈍い鐘の音が聞こえて、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。

 

「なんかごめん。てかあいつ何やってんだよ。俺もショックだわ」

 

Aよ、どう考えてもお前が謝るのはおかしい。

でもありがとよ。居てくれて、ありがとう。

 

しばらくしてだんだん腹が立ってきた私は、Aに提案した。

 

「いま、Aのスマホから崎山にLINEしてみようよ」

 

文面は私が考えた。

 

<お疲れー!俺、いま海苔子と飲んでるんだけど、実は大学時代からの友達でさ。お前の話が出てきたんだけど、どうしたらいい?>

 

送信。

 

15分後。

 

崎山から返信がきた。

 

<すみませんでした。>

 

続いてもう一通。

 

<でも、何もしてないので!>

 

Aが差し出したスマホを、危うく海鮮居酒屋の生簀にぶん投げそうになった。

 

そして私は崎山の彼女に同情し、考え込んでしまった。

 

彼女はこの事実を、知るべきではなかろうか?

 

もし私が、彼女と連絡を取れる状態にあったとしたなら。

例えば大事な友人だったとしたら。

 

私は真実を伝えるだろうか?

 

………否!

 

世界には知らない方がいいことが山ほどあるのだから。

 

私はAに言った。

 

「崎山に会ったら伝えといて。お前、そんな生活続けてたら、いつか何もかも失うよって」

 

世界はこんなにもせまいのだから。