訳あり総合商社マン(前編)

<社会人7年目。ブラジル駐在から帰ってきたら、周りが結婚してて焦ってます>

 

現地でサッカー観戦をした時に撮ったと思われる、ユニフォームを着て爽やかに微笑む塩顔。

 

あ、タイプだ。かっこいい。

 

そんな極めてシンプルな理由でマッチングすると、早い段階で飲みに誘われた。

 

旧帝大卒、総合商社勤務、身長178センチ、塩顔イケメン、31歳。

間違いなくモテるであろう崎山(仮)の積極性に、若干の警戒心を抱きながら待ち合わせ場所へ向かった。

 

ほんの少しでも怪しいと感じたとき、私は自分で店を指定するようにしていて、この時も某韓国料理屋を希望すると、崎山が予約を入れてくれていた。

また、<ライブの予定があるから20時には出る>と、あらかじめリミットも知らせてあった。

 

土曜の18時前に新宿に着くと、駅前のガードレールに腰かけて長い脚を伸ばしている崎山が見えた。

 

あ、かっこいい。(確信)

 

軽く挨拶をして韓国料理屋に入る。

私は単刀直入に聞いた。

 

「会社どこですか」

 

崎山は某総合商社の名前を挙げた。

でたエリート、と思うと同時に、警戒心が一気に緩んでいく。
私にはその会社に勤めるとても仲の良い男友達がいて、万が一何かあったとしても、崎山を辿れると確信したからだ。

 

和やかにお酒を飲みながら海外生活やお笑いの話をして、中盤、私は気になっていた質問を投げた。

 

「院卒じゃないのに、何で31歳で社会人7年目なの?」

 

崎山はサムギョプサルをつまみながら、あっけらかんと答えた。

 

「あ、ごめん。あれ更新してないだけで、本当は10年目かな」

 

え、お前、3年もTinderやってんの??

 

脳内アラートが発動した。

 

あああああ怪しい

こんなモテ要素だらけの男が、帰国後3年も彼女がいないわけがねぇぇぇ

てか更新しろや詰め甘すぎだろ!!!

 

「あ、そうなんだ。めちゃくちゃ浪人か留年かしたのかと思った」

 

心の叫びに気づかれないようにてへぺろと笑いながら、私は猛スピードでこの後の計画を立て始めていた。

まずはFacebookで崎山を探して素性を探ろう。

そして彼の同僚であろう私の友人に連絡し、崎山についてヒアリングしよう、と。

 

だけどもし、崎山に怪しい要素がないのだとしたら。

 

普通に付き合いたい。

 

シンプルにそう思ったほど、崎山はいい男だった。

 

店を出る時間になり、崎山が会計を済ませてくれた。

外に出て私が半額出そうとすると、崎山はそれを拒否してこう言った。

 

「じゃあ今度、ランチでも行く時にね」

 

脈アリかこれは!?

軽い足取りで、一人ライブ会場へ急ぐ。

道中、ポケットの中でスマホが震えて、見ると崎山からLINEがきていた。

 

<今日は本当にありがとう。めちゃくちゃ楽しかった!絶対また行こ!ライブ楽しんでね>

 

【速報】脈アリです。

 

駅前の巨大な液晶を見上げると、浮かれた速報が流れたように見えた。

 

ライブを楽しんだ私はホクホクした気持ちで帰宅し、Facebookで崎山を検索した。

 

共通の友達1人― ビンゴだ。

スクロールして崎山のフィードを見ると、私の男友達と崎山が沖縄旅行をしている写真が出てきた。

 

あぁ、なんという世界のせまさよ

神様ありがとう。

 

崎山の交際ステータスが「独身」に設定されているのを確認し、私はすかさず、男友達にLINEをした。

 

<久しぶり!ちょっと聞きたいことがあるんだけど>

 

彼もまた3年間の海外駐在から帰ってきたばかりで、駐在の間やや疎遠だったため、いきなり「いまTinderやっててさ~」と詳細を伝えるのが恥ずかしかった。

 

<お久しぶり!俺もちょうど海苔子に仕事の相談したいと思ってた。久々に飲もう>

 

こうして友人と再会した私は、衝撃的な事実を知らされることになる。

 

後編へ続く↓

noriko-uwotani.hatenablog.com