くっきりした二重と通った鼻筋、少し厚めの唇がバランス良く並んだ顔のアップが目に止まった。
印刷会社に勤める彼の名は隼人(仮)、31歳。
メッセージのやり取りをしていると、編集者という私の職業に興味をもった隼人がURLを送りつけてきた。
<昔、文章を書いていた時期があるんだ。よかったら読んでみてくれない?>
開いて見ると、面白そうで面白くない、少し面白い雑記が並んでいた。
ざっと目を通してプロフィール欄に飛んでみる。
すると、そこに書かれていた一文に、私は一瞬で心を奪われてしまった。
<山崎賢人似の力士といわれたことがあります>
み、見てみたい…!!!!!
好奇心を抑えきれず、コーヒーを飲もうと自ら誘うと彼は快諾した。
早めに喫茶店に着いた私は、自分の目印になる情報を送った。
<入口の前に立っているおかっぱに声をかけろ>
隼人からすぐ返信がきた。
<いま向かってる。半ズボンの小太りがいたら俺だ>
季節は11月だった。
半ズボンて。
デブかよ。
いや、デブなのか。
山崎賢人似の力士を想像してニヤけそうになるのを堪えながら待っていると、宣言通り半ズボンの小太りが現れた。
山崎賢人似の力士だった。
身長も高く、あと30キロ痩せたらとんでもないイケメンになるに違いない。
席に着き、甘いものを注文しつつ隼人にも勧めると、彼は「ダイエット中なんで」とアイスコーヒーだけ頼んだ。
「俺、これであと痩せさえすれば、見た目は完璧だと思ってるんだよね」
「いや、本当に」
私は素直に同調した。
仕事の話や好きな本の話をしながら、私は特に深い意味もなく隼人に尋ねた。
「彼女いないの?」
不自然な間が空いた。
いや、安心せぇ。
いたところで何も思わん。
「彼女ね…いるわ」
おるんかい。
「10歳年下で、もう3年近く付き合ってる。でも、1回もエッチしたことないんだよね」
ふぁ…!?!?!?
「え、何で?」
聞くと、彼女はいまの時代珍しい「結婚するまではしない」主義の古風な女性らしい。
出会いは3年前。
会社の高卒採用枠として入ってきた彼女に隼人が一目惚れをし、猛アタックの末に付き合い始めたという。
「もちろん不満はあるよ。でもさ、それだけで付き合うわけじゃないでしょ?」
私は静かに感動した。
世の中にはこんな男がいるのかと。
ん、でもちょっと待って。
何でTinderやってんだ…?
正直に尋ねると、隼人はこう答えた。
「んー、やっぱり、やりたいのかも知れない」
まさかのヤリモク宣言だった。
感動を返してほしい。
だけど不思議なことに、私は隼人に対してさほど嫌悪感を覚えなかった。
隼人の彼女に対する愛情がまだまだ枯れていないということが、どうしてか分かったからだ。
「気をつけなよ。世界はびっくりするほどせまいんだから」
私は見せしめに、総合商社マンの話(以下)を共有した。
「おぉーこわ」
隼人が大きな身体をわざとらしく震わせると、その振動でテーブルの上のコーヒーカップがカタカタと揺れた。
一瞬、地震がきたのかと思った。
「でも俺、マッチしても全然会えないんだよなー」
何にせよ、お前はもうちょっと痩せた方がいい。
話はそれからだ。