香ばしいインド人

その昔、マッチングアプリがまだあまり日本で普及していなかった頃、輸入物のTinderは「外国人に出会える」アプリとして有名だった。

 

日本人ユーザーが激増した今は「外国人にも出会える」程度になったものの、依然として日本在住の外国人をよく見かける。

 

私は英語の練習をしたかったこともあり、面白そうな外国人はLIKEしていた。

そうして出会った、インド人プログラマー(28歳)の話。

 

フランクな外国人は日本人に比べ、顔を出していないことを良しとしない(というか「恥ずかしい」という感情が理解できないらしい)傾向があり、積極的にメッセージが送られて来るのは珍しいことだった。

 

日本に来てまだ3ヶ月というガンジー(仮)は、私にこう言った。

 

Shall we go to 新宿御苑 ?

 

紅葉の綺麗な季節だった。

いいよいいよ、案内しようじゃないの。

 

私は快諾し、土曜の昼下がりに新宿御苑前駅の出口で待ち合わせた。

 

「コンニチハ~」

 

ジーンズに白シャツのシンプルな服で現れたガンジー

 

「ナマステー」

 

近寄ってくるガンジーに、唯一知っているヒンディー語で挨拶をしたその瞬間、腐敗したスパイスのような強烈な香りが鼻を掠めた。

 

ヤバい、無理だ、この匂い。

インドカレーは好きだけど、これはきつい。

 

ガンジーの背景に広がる新宿御苑前駅が、インドカレー屋の廃墟に見えた。

 

お願いガネーシャ、私を一時的な鼻炎にしてください。

 

心の中で捧げた祈りが届くはずもなく、私はマスク生活に人生初の感謝を表しながら、口呼吸に切り替えてなんとか御苑の散策を終えた。

 

じゃあこの後は食事でも、という雰囲気になる前に、私は「急用ができた」という定番の嘘(インドで定番なのかは不明)を吐いて逃げるように帰った。

私の行動に、ガンジーも脈なしであることを察したのか、特に連絡が来ることもなかった。

 

ところが2ヶ月後。

久々にガンジーからLINEがきた。

 

<あれからいろんな女の子とデートしたけど、海苔ちゃんみたいな子いなかったよ〜>

 

においのせいでは、なかろうか。

そう思ったけど言えなかった。

 

唯一の救いは、ガンジーの書く日本語が驚くほど上手くなっていたことだ。