前編はこちら↓
私はそれまで、顔がタイプでない人と付き合ったことがなかった。
「この人じゃない」と心の奥底で叫びながら、LINEで新しい作品を見せられる度にずるずると惹かれていく、そんな日々が続いた。
星野と3回目に会った夜、彼の家に招かれたが、心を決めきれなかった私はムーディーな空気にならないよう家中の物にツッコミをかまし、終電で逃げるように退散した。
その日を境に、星野からの連絡は途絶えた。
無論、私のツッコミがスベったのではない。星野が恋愛関係に発展させることを諦めたのだ。しかし私は、次第に後悔の念に駆られるようになった。
そう信じていたが、やっぱりあの時、逃げるべきではなかったのかも知れない。
友人に相談すると、こう言われた。
「付き合ってみてもしダメだったとしても、『やっぱり顔が好きじゃない人とはうまくいかない』ってわかるから、それは意味のあることなんじゃないの?」
た、確かに!!!
そうして背中を押された私は自ら星野に会いたいと連絡し、結局付き合うことになった。
私は星野と付き合いながら、コンペに出すために小説を書き直した。
過去に自分が情熱をもって書いたものを修正する作業は、昔の自分を否定するようで、なかなか辛いものがあった。
それでも、隣で星野が何か創っているだけで、自分も頑張らなきゃ、負けてられない、と鼓舞されたのだった。
だけど、多分それがよくなかった。
尊敬し合えたはずの私たちは、日を追うごとに、憎しみ合うライバルのようになってしまった。
私はどうにか小説を完成させてコンペに出したが、星野との付き合いは半年足らずで終わり、苦い記憶だけが残った。
星野と別れてしばらく絶望していた頃、コンペの結果が出た。
小説のコンペは締切から結果が出るまでにおよそ半年かかる。まさか結果が出る頃に別れているとはね?と苦笑しながら文学賞のサイトを開くと、そこには私の名前があった。
受賞は逃したが、星野に励まされながら書いた作品は、かなり惜しいところまで残っていたのだ。
<おかげさまで受賞できました。デビューします♪あざっした♪>
と彼を苛立たせるLINEを送れたらかっこよかったのだが、人生はそう期待通りにはならない。
だけど、それなりの結果を残せたことで、星野と付き合ったことに意味はあったとようやく認めることができた。
そうして復活した私は、このブログを立ち上げるに至った。
最初に書いた「その中のひとりに恋をしたお話」は、星野のことだ。
私はいまも、Tinderを続けている。
星野との別れを含め、しんどいことは山ほどあった。
それでも何もないよりはよかった。
根が芸人の私は、そう思う。
このブログは、どうやらまだ続く。