興味本位で女性ユーザーも表示していたある日のこと。
ピンク系アイシャドウにゆるく巻いた茶髪、CanCam時代のエビちゃんを彷彿とさせる美女に思わず目が留まった。
職業はエンジニア、26歳。
美女エンジニア!かっこいい!と思いマッチングしたところ、メッセージで尋ねると身も心も男性の方だった。
“可愛すぎるジュノンボーイ”で有名になった井手上漠のようなジェンダーレスではない。
自身を完全に男性と認識していて、恋愛対象は女性。女装趣味もなく、化粧をしていることを除いてはいたって普通のエンジニアのようだ。
<もう着いてます!>
とアオイ(仮)からメッセージがきて、それらしい人を探すも見当たらない。
次の瞬間、喫茶店の奥の席から手を振る、マツコ・デラックスのような全身黒ずくめの巨人が見えた。
う、嘘だろ…!?!?!?
写真に騙されたと憤慨する低俗なヤ◯モク男の気持ちがほんの少しわかった気がした。
「めっちゃ男なんだね」
席に着き、思わず失礼な第一声を発してしまった私。
「めっちゃ男です!てかそのリアクション、ウケる」
女子高生のような言葉遣いで、だけど太く低い声でケラケラと笑うアオイ。
ノリのよさに、こちらまで楽しくなってくる。
馬鹿みたいにデカいチョコレートパフェを分け合いながら、なぜ化粧をするようになったのかと尋ねた。
「自分、早稲田の理工出身なんですけど、仲の良い先輩が池袋の女装カフェで働いててー。その時は全然興味なかったのに、1年くらい前にたまたまYouTube見てたらなんかやってみたくなって、そしたらハマっちゃった感じ?」
聞こえますか、美容系YouTuberの皆さん。
あなたたちは御徒町の男性エンジニアにも多大な影響を与えています。
エンジニアの仕事について詳細を尋ねると、面白い経歴を話してくれた。
「大学3年の時に仮想通貨で4千万勝ったんですよー。それで大学はほとんど行かなくなって、これで食っていけそうだし辞めようかなーなんて思って調子に乗ってたら、1ヶ月で4千万全部パーになっちゃって。仮想通貨からは足を洗って、ちゃんと大学も卒業して、いまは一応、会社の代表やってます」
「へぇ。まだ若いのにすごいね」
「全然すごくないですよー。普通にプレイヤーだし。最近は毎日XXX(某商社)に出向してて、わりと忙しいです」
アイスココアをずるずると啜るアオイ。
「仕事の時も化粧するの?」
「うん。いまの職場はスーツのおじさんだらけだから、正直めっちゃ浮いてる笑」
Tinderをやっている理由を聞くと、彼女探しらしい。
「化粧しない方がモテるんじゃ?」
私が正直に思ったことを言うと、アオイはココアの氷をストローでかき混ぜながらこう答えた。
「でもね、化粧した自分も好き、って言ってくれる人がいいんです。やっぱ難しいんですかねー」
1時間ほど話して別れ、アオイが「よかったらフォローしてください!」と教えてくれたTwitterのアカウントを覗いてみた。
最新の呟きが以下。
<あーーーお○んちん大きくしたい!>
めっちゃ男だった。