死ぬほど喋る小池徹平

50人会った中で一番のイケメンは?と問われれば真っ先に思い出す、正統派な顔立ちをした、限りなく小池徹平に近い男がいた。

 

平日の夜、上下adidasのジャージ(緑)で新宿に現れた徹平、29歳。

待ち合わせ場所にて「人違いです」と言って引き返すことを検討するレベルのファッションセンスだが、178センチの細身と小さく整った顔があるだけで

「ミュージカルの稽古帰りの若手俳優みたい★」

としか思わず、イケメンの威力を思い知る。

 

カフェで軽くご飯を食べながら、クリームソーダを飲んだ。

徹平は上智大学を出た後、歌舞伎町でホストを1年したもののNo.1にはなれず、その道を諦めようとしたタイミングでお笑いにハマり、現在は某テレビ局の制作会社に勤務しているとのことだった。

 

「もう、ホストって本当にかっこいい人多すぎて。自分なんか全然でした」

 

「ソフィア出身のホストって、いいキャラクターだと思うけどね」

 

「いやいや、学歴なんて何の役にも立たないっすよ」

 

 

大学時代の専攻を聞くと、哲学だという。

何か哲学の本をおすすめしてほしいとお願いしたところ、徹平はあるドイツ哲学者の名前を挙げ、推しについて語る盲目なオタクのように早口で喋り始めた。

 

時が止まったのかと思った。

話が下手すぎるのだ。

 

あぁ、わかったぞ、お前が歌舞伎町でNo.1になれなかった理由が。

 

ちょっと何言ってるか分かんないです」

 

途中、耐えかねてサンドウィッチマンのコピーを2回してみたが、徹平の哲学談義は止まることを知らない。

 

30分経過。

 

さすがに徹平も疲れたのか、緩やかにお笑いの話題へ移行し、

私が最近のライブシーンについて知識を伝授すると

「こんなにお笑いに詳しい人に会ったことがない!」

と目を輝かせた。

 

「これ誰にも言ってないんですけど」

 

徹平が少し小声になる。

 

「僕ね、実は来年のM-1に出ようと思ってて。最近たまにライブにも出させてもらってるんですよ」

 

私は青ざめた。

お前が書く漫才は、絶対に面白くない。

 

「相方はどこで見つけたの?」

 

「あ、普通に、mixiっすね」

 

ミ…ミクシィ!!!!!!!!!!

久々に聞いたぞおい。

普通に、じゃねぇよ!!

 

「へぇ。頑張ってね」

 

私は氷の微笑を浮かべてそう言い、解散した。

 

家に帰ると、徹平から

「僕はとても楽しかったのでまた食事に行きたいのですが、いつなら空いてますでしょうか?」

とLINEがきていた。

 

「ごめん、親知らず抜くからしばらく無理だわ」

私はそれだけ送り、徹平をブロックした。