待ち合わせの店に向かう道中、たまたま通りかかった雑貨屋をちらりと覗くと、店員から半強制的にお店の宣伝用バルーンを手渡された。
い…いらん。
めちゃくちゃ邪魔だ、どうしよう。
片手に真っ赤なハートのバルーン。
リュックから飛び出る丸めた的。
新世紀のオタクみたいな様相の私を見て、再会した桜井は軽く引きながら「何それ?」と尋ねた。
「なんか雑貨屋でもらった。桜井君はその後どうよ?勝った?」
「1万6千円勝った」
「マジか!さすが。あの中華系の金持ちおじさんはずっといた?あいつ序盤でさぁ、」
注文したカンジャンケジャンを待ちながら、先ほどのポーカーで生じた疑問を片っ端から桜井にぶつけた。
東京のアミューズメントポーカーと同じ感じでプレイしていた雑魚な私を見ていた桜井も「ああいう時はこうした方がよい」と具体的なアドバイスをくれた。
カンジャンケジャン。
それは、醤油ベースのタレに漬けこんだ生のワタリガニである。
※映えなすぎて草が生える。
味付けが濃く、ごはん泥棒どころか強盗の騒ぎだったが、おいしくいただいた。
夕食を終えると、ホテルのチェックインが22時までだったので、とりあえず桜井と一緒に向かうことにした。
立地のわりに安いなと思っていたが、周辺はどう見てもラブホ街だった。
予約したホテルもまた、「ラブホを改装したビジホです」と言わんばかりのネオン耀く外観をしている。
まぁでも、桜井がこの感じなら大丈夫だろう。
そう確信しながら、部屋に入る。
私は学生の頃バックパッカーみたいなことをしていたので、異性との相部屋にあまり
抵抗がない。
同じベッドだけは嫌だったので、二段ベッドとシングルベッドがある3人泊まれる仕様の謎部屋を取った。
私が二段ベッドの下に腰掛けると、桜井は突然こう言った。
「今からウォーカーヒル(カジノ②)に行ってこようかな」
はい?
「え、明日行くよね?今日も行くの?片道1時間かかるよ?」
「うん。下見もしたいし」
あぁ、変態だ。
やはりこいつも、変態だったのだ。
朝5時起きだったとはいえ、まだ寝るには早いし、引き止める理由もない。
「私は休むね。気を付けて」
そうして桜井を見送り、備え付けのテレビで韓国のバラエティを見たりしながらダラダラと過ごし、眠った。
翌朝6時半。
ドアの開く音で目が覚めた。
「おかえり」
「ごめん起こした」
「勝った?」
「2万負けた」
昨日朝5時に起きて渡韓してカジノ①に行き、夕食だけ済ませてカジノ②に行き、徹夜でポーカーをした彼の財布は現在4千円のマイナスである。
狂っている。
「今から寝るの?私は11時くらいにここを出てお昼食べるつもりだけど、カジノ集合でもいいよ?」
「いや、昼は一緒に行く。仮眠だけとらせて」
そうして桜井は、爆速で眠り始めた。
狂っている!!!!!
そろそろ11時になろうかという頃、私は桜井を叩き起こし、昼食のために市場へ向かった。
続く。