マッチグアプリで出会った男に前科があった話⑦
私は既読をつけないように、そっと中の文章を読んだ。
<X月X日に息子が大きな事故に遭い、1ヶ月以上経ったいまも意識が戻らないため、代わりに連絡しました。>
息が止まりそうになった。
事故に遭ったという日付は、ちょうど私が彼に最後のLINEを送った日だった。
LINEはさらに続いていて、長期間連絡が取れなかったことの謝罪と、もし何か対応が必要なことがあれば連絡してほしいというようなことが書かれていたが、私に対してというよりは全ての友人や仕事の関係者に送っているような文面だった。
なんだこれは。
苦しい。
なんで。
なんで、こんなことになるんだ。
彼があんな長文を私に残さなければ。
私が好奇心で過去を調べたりしなければ。
ここまでの苦しさはなかったはずだった。
平日の夕方で、仕事中だった。
読まなくてはならない原稿が目の前にあるのに、読んでも読んでも頭に入らなかった。
私の動揺を察してか、隣の席のアユミが「大丈夫?」と声をかけてきた。
「今ちょっとだけ外出れる?」
アユミを休憩室に連れ出し、小声で説明すると、彼女は真っ先にこう言った。
「それ、本当にお母さん?」
ーやはり。
そう言われるかもしれないと予想していたくらいには、私もその考えが頭を過っていた。
だけど、すぐに打ち消した。
何かを誤魔化すためなら、もっとマシな嘘がある。
スマホを落として、アプリもログインできなくなって云々とか、適当に言えばいい。
こんな嘘をついたら、余計私に会えなくなるじゃないか。
私がそれを説明してもアユミは「本当かなぁ」と訝しんでいて、私はどうしてか、全力でその説を否定したい衝動に駆られていた。
なぜ、そうまでしたいのか。
たった一度、飲みに行っただけの男を、共に生きる未来などない人を、なぜそうまでして庇う必要があるのか。
自分でも不思議だった。
仕事を終えて帰宅し、あらためて母を名乗る人のLINEを丁寧に読んだ。
文体や言葉遣いからしても、これはリョウの書いたものではないと思った。
もしこれが本当に母親のメッセージなのだとしたら。
直近まで連絡を取っていた私は、返信をした方がいいのではないか?
そう思った私は、返事を送ることにした。
<リョウさんとは食事の約束をしておりましたが、私の方は大丈夫です。1日でも早く回復されることをお祈りしております>
数時間後、返信があった。
<そうだったのですね。申し訳ありませんでした。また状況が変わればご連絡します。>
もう、連絡がくることはないだろう。
人は植物状態になって1ヶ月以上経つと、回復する確率が急激に下がると聞いたことがあった。
これで終わったのだろう。
そう思うと同時に、いま同い歳の人が生死の狭間を彷徨っているという現実が、重くのしかかった。
つらい。
しんどい。
どうか回復してほしい。
もう会うことはないけれど、どうか。
暗い過去を背負った人の道が、その先もずっと暗いなんてことは、あってはならないから。
どうか私の知らないところで、幸せになってほしい。
心からそう祈っていた。
それから1ヶ月以上が過ぎた頃。
再びLINEが届いた。
<度々すみません。リョウの母です。>
続く。