株主総会に誘ってきた文学青年

早稲田大学卒、マーケター、27歳。

名前は夏目(仮)。

 

身長が私とほぼ同じで、写真を見る限り顔も特別タイプではなかったが、プロフィール文がユーモアにあふれていて気になった。

 

<大学時代ラブホでバイトをしていたら、並の性癖では引かなくなりました。>

 

この感じ、おそらく文学部だ。

早稲田には文学部と文化構想学部の2種類があり、私の経験上、前者の男子はたいてい奇人である。

 

<文化構想じゃない方?>

 

私がそう尋ねると、夏目は<文学部が”じゃない方”なんですか?>と怒りを露わにしたが、チャットのやり取りはわりと盛り上がった。

 

夏目には、チャットの短いやり取りで分かるほど凄まじい文才があった。

文才のある人に弱い私は彼に会ってみたくなり、喫茶店で待ち合わせることにした。

 

現れた夏目は小柄だったが、妙に色気があった。

 

何だこれは。

こんなに小柄なのに、何だこの色気は??

 

私は思わず、目の前に座る男を観察してしまった。

 

顔が小さくオシャレで、声が低い。

あとは、何だろうか。

 

「見てください、これ」

 

夏目は鞄から、書店のカバーがかかった単行本を取り出した。

開くと、直筆サインが書かれていた。

 

朝井リョウが早稲田に講演に来たときもらったんです」

 

私が朝井リョウが好きと言っていたので、見せようとわざわざ持ってきてくれたらしい。

 

それから本の話や仕事の話を軽くした後、夏目は私に尋ねた。

 

「海苔子さんは何でTinderやってるんですか?」

 

「とりあえず面白い人に出会って、好きになったり付き合えたりしたらラッキー、くらいの気持ち。夏目君は?」

 

「僕は、人生の伴侶を探してます」

 

意外な回答に、ちょっと笑いそうになった。

 

「年上が好きなの?」

 

「そうですね。年上しか会ったことないです」

 

「何で?年上の何がいい?」

 

「年上の方が…エロいんですよね」

 

「…」の間がキモいなと思いつつ、私は以前出会った、ドMの外コンを思い出していた。

noriko-uwotani.hatenablog.com

※30歳を過ぎたら女は終わりだみたいな言説がネットにはあふれているが、世の中にはこういう、性癖がアレなイケてる男子がわりといる。

だからこれを読んでいる女性は絶望しないでほしい。

 

1時間そこそこお茶をして、喫茶店を出た。

 

年下すぎるので会計は私が持つつもりでいたが、夏目が奢ってくれた。

 

「じゃあ次回奢ってください。これからどうします?別の店か、散歩でもいいですが」

 

わりと楽しかったのでこのまま飲みに行ってもよかったが、私はこの日アポハシゴをして疲れていたため、今日は帰ると伝えた。

 

後日。

夏目からとあるバーに行こうと誘われ、私は仕事帰りに顔を出した。

 

彼は相変わらずオシャレで、店員や他のお客さんと気さくに会話をしていて、私は「あれ?こいつけっこういい男では?」とうっすら思い始めていた。

 

だがしかし。

私は夏目の視線を観察した。

 

多分これは。

この感じは。

 

…下心しかねぇ。

 

悲しいかな、この歳になると、自分に向けられた眼差しが恋愛感情のそれか、ただヤリたいだけのそれか、手に取るように分かってしまう。

 

真剣に付き合うつもりはないな、と察した。

 

そして賢い彼もまた、私が察したことを察したのだろう。

 

1時間そこそこで切り上げ、彼はまたもスマートに会計を済ませてくれて、なんとなくもう会うことはないのだろうという気配があった。

 

ところが、後日。

 

なぜか株主総会に誘われた。

 

 

私は一体何枠なんだろうかと面白がりつつ丁重に断ると、さらに数ヶ月後。

 

LINEでリンクが送られてきて、開くと女性用風俗のサイトに飛んだ。

 

SOSEKI(仮)というキャストのプロフィールページだった。

 

どうやら夏目は、女風のキャストとして仕事を始めたらしい。

文才を存分に生かしたプロフィール文は読み応えがあり、私は夜中にゲラゲラ笑いながら読んだ。

 

<このプロフィールって自分で書くの?>

 

<基本はそうですね>

 

口元だけモザイクで隠した写真を眺めながら、私は思った。

 

お前、羞恥心とか、ないんか?

 

あとこれを私に送ってくるってどういう意味?

ご指名お待ちしてますってこと??

 

私は風俗を利用したことがなく、今後利用する予定もないが、今もたまに彼のプロフィールを覗きにいくことがある。

 

サクラか本物か分からないが、たまに増えるお客さんの口コミと、それに対する彼のユーモアあふれる返信を読んで面白がっている。

 

<女風小説を書きたいんですよね>

 

彼はLINEでそう言っていた。

あの文才があれば、さぞかし面白いものが書けるに違いない。

 

私が夏目を指名する日はこなくても、彼の作品にお金を払う日がくればいいと、ひっそり願っている。