10年来の友人と結婚する世界線の話⑤

内定式の時だったろうか。

たしか人事部長は、内定者全員に向かってこう言っていた。

 

「大阪にも編集部はあるが、規模が小さいし、関西出身者が異動希望を出して行くケースがほとんどだから、君たちが転勤になる可能性は2%くらい」

 

私はその2%に入ってしまったらしい。

 

自分の不運を呪った。

 

ほんの一瞬で、いろんなことが頭を駆け巡った。

 

タクヤに会えなくなってしまう。

いやでも、彼もそのうち海外に行くか。

転勤はせいぜい3年だろうし、同じタイミングで東京に戻って来れたりするのかな?

ん、ちょっと待て。

マンションの更新料10万、先週払ったばっかなんだが?

4月の武道館ライブ、チケット取ったのに行けないじゃん。

え、てか何で私なの??

大阪に異動希望出してた人、他に何人もいたの知ってるんだけど?

何でいま言うの?遅くない?

これは、もしかして夢???

 

その間も人事課長は、なぜ私なのかという理由と、今後の手続きや家探しのことなどを30分ほどかけて説明していたようだったが、頭が真っ白でほとんど聞こえなかった。

 

帰宅して冷静になり、タクヤに電話をかけて転勤が決まった旨を伝えた。

 

「え、マジ?笑」

 

彼は終始明るいトーンで、「もう飲みに行けないね~」と茶化すように言った。

感情が、読めなかった。

 

「飛行機タダなんでしょ?遊びに来てよ」

 

「うん、行くよ。引っ越しはいつ?」

 

「3月末。早く家探さなきゃ」

 

「じゃあ引っ越しの前に壮行会してあげるね」

 

そうして3月の終わり、彼は当時の我々が行くにしては高級な、夜景の見える焼肉屋に連れて行ってくれた。

 

タクヤはいたって普段通りでしんみりすることもなく、私はそれが嬉しかった。

食事には行けなくなるけれど、電話ならいつでもできる。

私たちの関係は変わらない。

そう思えた。

 

そして私は新幹線の片道切符を買って、縁もゆかりもない大阪に引っ越した。

 

大阪の編集部の人たちは優しく迎えてくれたが、若手が少なく(私が最年少だった)、仕事も本社とは違っていて、慣れないことだらけでしんどかった。

 

休日は家の片付けが終わると、やることが何もなかった。

友達がいないからだと気づいた。

 

タクヤから週3回かかってきた電話は、4月1日以降、ぱたりと止んだ。

武道館ライブのチケットはネットで売り払った。

 

何もかもがつらくて、本当に毎晩泣いた。

 

必死で2週間生きた後、私は痺れを切らして、タクヤに電話をかけた。

 

「どうしたの?大阪慣れた?」

 

彼は何事もなかったかのように出た。

 

「つらい。東京に帰りたい」

 

私が弱音を吐くと、彼は「いや大丈夫でしょ笑」と軽率に励ました。

その軽さに、腹が立った。

 

極め付けに、こう言われた。

 

「そっちで彼氏つくればいいじゃん」

 

…は???

私のこと好きなんじゃなかったの?

 

この1年以上にわたる思わせぶりは、何だったの!???

 

涙が溢れてきて、私はそれをタクヤに知られたくなくて、「もういい」と言い捨てて電話を切った。

 

こうして私は、第1回目の失恋をした。

(2回目があるなんて思ってもなかったが)

 

続く。