それから私とタクヤは、隔週ペースで会うようになった。
飲みに行く前に映画を観ることもあれば、休日の昼間に美術展に行くこともあった。
「次は私がご馳走する」と何度言っても、彼は毎回スマートに会計を済ませてしまい、頑なに私のお金を受け取らなかった。
始めのうちはそれを脈ありムーブだと思い喜んでいたが、次第に違和感を覚え始めた。
毎回、遊んで飲んで、何もなく解散するだけなのである。
それでいて連絡はマメで、週3くらいのペースで電話がかかってきた。
正直、そんなに話すことがなかった。
沈黙に耐えかねた私が「話すことないなら切るよ?」と言うと彼は嫌がり、いつしか無言のまま、互いの生活音だけを聞かせ合いながら何時間も繋ぐという、謎の無言電話が私たちの日常になった。
おそらく彼は、かなりの寂しがりやだったのだと思う。
けどこいつ、どう考えても私のこと好きだろ。
なぜ何も言ってこない??
もしや友だちコース?
じゃあ何で毎回奢ってくれるの?
頭の中は疑問でいっぱいだったが、私も若かったので、自分から告白するのは気が引けた。
そして次第に、彼の性格のヤバいところも見え始めた。
いつものように仕事終わり渋谷で飲んだ日、私は関係性を一歩前に進めようとあえて終電を逃したことがあった。
家に招かれることを期待したからだ。
しかし、彼はこう言った。
「海苔子の家の方が近いから、今からタクシーで一緒に行こう」
「タクヤは三茶に住んでるんでしょ?そっちの方が近いじゃん」
「三茶じゃないよ。◯◯ってとこ」
三茶から数駅離れた、ややマイナーな駅だった。
「え、三茶って言ってたじゃん。何で?」
「◯◯って言っても伝わらないかなって思ったから」
そして「ほら」と免許証に書かれた住所を見せられた。
うわ…カッコつけるために三茶って言ったんだこいつ…
住所詐称て。
人としてヤバいだろ。
そもそもハイブランドが好きだったり、無理をしてロレックスを買ったり、彼女でもない女に奢りまくる男だ。
見栄とプライドの塊なんだわ。
そうに違いねぇ…!
頭では冷静に考えたが、しかしこの時の私はもう、タクヤのことを好きになってしまっていた。
二人でタクシーに乗り込み、私はタクヤを家に入れた。
結果。
本当に何も起きなかった。
覚えているのは、タクヤのスマホで懐かしのドラマ『GOOD LUCK!!』を観せられたこと。
あぁ、これはガチで友達コースだわと諦めた私が、タクヤにベッドを譲り来客用の布団を出そうとすると、ベッドの上から「こっちおいで」と言われたこと。
触れ合うほどの距離に好きな人がいて、ドキドキして眠れない私と対照的に、彼が普通に寝息を立て始めたこと。
明け方、布団の中で髪を撫でられたこと。
いや、もう前戯やん。
何でこの状況で寝れるわけ?
ゲイなのか??
私はますますタクヤのことがわからなくなったが、しかしこの日、彼が見栄とプライドの塊と化した原因だけは理解した。
明け方、彼はポツリと話し始めたのだ。
「俺、母親がCAなんだけどさ、ちょっと変な人で…」
続く。