20代で結婚して子供を産む、という人生が当たり前に自分にもやってくると思っていた。
どうやらそうではないらしい、と気づいたのは29歳の終わりのこと。
在宅勤務という言葉が生活に溶け込んできて、一人暮らしの自由をこれでもかと謳歌し始めた季節のこと。
私は、結婚したいのだろうか?
人生に、結婚は必要なのだろうか?
いまの生活は100%楽しい。
それでも、ずっとこのままでいいと割り切ることは思いのほか難しく、考えて考えて、とりあえずはいろんな人に会ってみようと決めた。
普通の人に興味がもてない私は、普通ではない人と繋がりたかった。
Tinderは、ちょうどよかった。
恋愛目的に特化した他のアプリにはいないタイプの、奇想天外な人がたくさんいたからだ。
私もその中のひとりだったのだと思う。
顔を出さず、偽名で登録し、ほとんどの相手にタメ口でメッセージを送り、相手のことは「お前」と呼んだ。
普通でない人と繋がるためには、自分が普通であってはならないと信じていた。
これは、そうして出来上がった即席の奇人に引き寄せられた人々の記録と、その中のひとりに恋をしたお話です。