1回飲みに行っただけの男と海外旅行に行った話①

綺麗な顔立ちと、本やお笑いに詳しく出身大学も同じという共通点が気になり、久しぶりに自分からメッセージを送った。

 

Tinderで表示されている名前は”桜井和寿”、職業マーケター、32歳。

 

ミスチルが好きなのだろうか。

好きだからといって名乗るだろうか?普通。

 

ミスチルの方ですか?ファンです!>

 

私が夜中にそう送ると、すぐに返信がきた。

 

<よく分かりましたね!ありがとうございます>

 

メッセージはこう続いた。

 

<好きな本は◯◯です。読んだことありますか?>

 

この手のイケメンは選び放題の立場にあるため、こちらが顔を出してない以上、やり取りのラリーが続くことは少ない。

 

しかし、共通点の多さゆえだろうか。

桜井(仮)とのラリーは途切れることなく、どんどん長文になっていった。

 

そして1~2週間が過ぎた頃、私たちは仕事終わりに飲みに行くことになった。

 

現れた桜井は身長が180センチあり、痩せていて顔が小さく、モデルみたいな容姿をしていた。

 

うお、イケメン来たァァァ…!

 

顔立ちが濃い目だったので特別私のタイプではなかったものの、カウンターに横並びで座ると、いささか緊張した。

 

彼はチャットの段階で既に「ペアーズで知り合った子と~」という話を平然としてきていたので、まぁこれは友達枠だろうなと思い、私もあっけらかんと「Tinderで100人以上会ってる」と話した。

 

文化的な話をしつつ、「他に趣味は?」と尋ねると、彼はこう答えた。

 

「ポーカーが大好きで、いつか日本にカジノを作りたい」

 

おぉ、壮大な夢だな。

 

私は別のTinder男(よき友人になってしまったため、ブログには書いてない)にポーカーを教わったおかげで、何度か経験があった。

 

「カジノかぁ。私もXXのアミューズメントポーカーなら何度か行ったことある。XXではけっこう勝てたんだけど、カジノでも勝てるかな?」

 

「それなら勝てると思いますよ」

 

「マジ?ちなみに海外でどこがおすすめ?」

 

「近いのはソウルですねー」

 

桜井のポーカー歴は10年を超えていて、海外のメジャーなカジノはかなり行ったことがあるらしかった。

 

「あ、ソウルといえば。明洞に実弾撃てるところがあるらしくて、ちょうど行きたいと思ってたんだよね」

 

いつしか芸人のラジオで知った実弾射撃場に行きたいと、もう何年も思っていた。周りに実弾射撃に興味のある友人がおらず、それだけのために一人で渡韓するのもなぁ…と躊躇していたのだった。

 

「一緒に行きます?」

 

ん?

さすがに冗談か?

 

と思ったが、とりあえず「いいね笑」と乗っかった。

 

「ちなみに桜井君は海外カジノいつぶり?」

 

「2年前だったかな。その時は△△△に行ったんですけど、ペアーズで知り合った女の子がついて来ました」

 

「元カノ?」

 

「いや、付き合ってはなかったです。一緒に行きたいって言われて、割り勘だったんで宿代が安くなるならいいか、と思って」

 

「アプリで知り合った女と海外カジノに行くの、趣味なん?笑」

 

「全然そういうわけじゃないですけど笑 写真見ます?」

 

私が失笑しながら「見たい」と言うと、桜井はスマホで例の女のプロフィールのスクショを表示して見せてきた。

 

顔立ちは可愛らしい子だったが、プロフィール文がほぼポエムだった。

 

「この子…メンヘラじゃね?」

 

「え、そう見えます?職業がパパ活だったんですよね」

 

「はい…?」

 

「3人パパがいて、実家暮らしだから生活費がかからないとか言ってたな」

 

「桜井君、そういうの抵抗ないんだ?」

 

「職業に貴賎なしって言うじゃないですか」

 

さすがにパパ活は違うだろと引きながらも、これだけ男前な桜井にびっくりするほどプライドがないことに、私はかえって興味を惹かれた。

 

独特の価値観をもっている人は、いつだって興味深い。

 

3時間ほど飲み、店を出てLINEを交換した。

 

パパ活女子の写真見せられたくらいだし、私のことは全然刺さってないんだろうなと思っていたが、意外とすぐにLINEが届き、会話は続いた。

 

<行くならいつ頃がいいとかあります?>

 

そう送られてきた時はマジで行くんかいと驚いたが、この先の人生でイケメンと海外旅行に行く機会などもう二度とないかもしれない。

 

1回しか会ってないが、話題の尽きない人ではあったし、一緒に旅行をすれば多分楽しいだろう。

 

それに、女友達との旅行ではカジノに行く機会はない。

おまけに念願の実弾が撃てる。

行きたかった韓国カフェにも寄れる。

あと多分、あいつと泊まっても何も起きない。

 

なぜかそんな確信があった。

 

<5月中旬は?>

 

そうして私たちは1ヶ月後、成田空港で待ち合わせることになった。

 

次回以降、ソウル旅行記が続きます。