この渋い暖簾、ご存知だろうか。
東京おでんラブストーリー。
それは、都内に数店舗展開する、「出会いを求める男女が集まる」がコンセプトのおでん屋である。
3月某日。
私はリピーターの友人と共に、新橋にある裏コリドー店に行ってみた。
入り口は、謎の銭湯コンセプト。
中に入ると、10人ほど座れそうな大きめのテーブルが4卓。
ド平日なこともあり、先客がいるのは2卓のみだった。
元気の良い店員がやってきて、席を指定される。
「こちらどうぞ!」
先客を一目見て、私の顔は引き攣った。
両腕にびっしりと刺青が入った、黒ずくめのいかつい兄ちゃん×3。
反○の方じゃないよね?ね?ね?
ドラゴンタトゥーの男たちと目を合わせないまま私たちが席に着くと、店員がルールを説明しにきた。
卓上のおでんはセルフサービスで、何を食べたかは自己申告性。
(よ!性善説!)
おでんの串にはクジがついていて、「他のグループのお客さんに一杯プレゼント」といった、交流のきっかけになるエンタメ要素あり。
そして最後。
「お席の移動は禁止です」
つらい。
10分そこそこで席を替えられる相席屋と違い、ここは一度座ったが最後。
私は、ドラゴンタトゥーの男と運命を共にする覚悟を決めた。
店員「ちなみに、この店舗だけカラオケが付いていて、無料で歌い放題なのでよかったら!」
テーブルには、歌えと言わんばかりにマイクが2本置かれていた。
私と友人はドリンクを頼み、おでんをつまんだ。
うん、普通にうまい。
タトゥー男の反対側には、アラサーと思しき女性2人組がいたが、各々グループで飲んでいて交流している気配はない。
あれ、意外と別々な感じ?
ちらりとタトゥー3兄弟を盗み見ると、端からほぼ田中圭、ほぼ阿部寛、ほぼ武蔵とバラエティに富んだ顔ぶれだった。
すると、阿部寛が突然言った。
「あ、当たりだ」
おでんの当たりを引いたらしい。
とうがらし酒を他のお客さんにプレゼントするという半ば罰ゲームだったが、彼が違う卓の男性を指名したことで、一気に場が温まった。
阿部寛がこちらを見て言った。
「お姉さんたち、ここ初めて?とうがらし酒飲んだことある?」
きたきたきたー!!!!!!
私「初めてです。そんなに辛いんですか?」
阿部寛「うん、ヤバいよ。じゃあこのテーブルみんな一口ずつ飲もう!」
…何でそうなる?
反対側の女性2人組も巻き添えを喰らい、結局私たちは全員でとうがらし酒をあおった。
悲しいかな、酒の力はすごい。
それによって我々のテーブルには、謎の一体感が生まれていた。
田中圭「オレ歌っていいですか?てか誰か一緒に歌いません?」
彼は素早くデンモクを操作し、反対側の女性とデュエットが始まった。
そう、ここは新橋。
ねぇ母さん。
田舎から東京に出てきて、大学まで行かせてもらって、私はいま、全身にタトゥーが入った男の『俺ら東京さ行ぐだ』を聞いています。
曲が終わり、私は田中圭に尋ねた。
「何をされてる方なの?」
意図せず和田あき子の口調になってしまったが、彼はそれには一切ふれずに答えた。
「鳶職。こっち(阿部寛)が社長で、俺が社員。まあ職場仲間というよりは、中学からの地元の先輩って感じだけど」
へぇ社長。
阿部寛「昔はヤンチャしてたけどねー」
私「ヤンチャって具体的に何を?」
田中圭「密輸と詐欺」
出た!!!ガチ前科!!!!!
私「え、何を?どうやって?」
それから彼らは「アウトレイジの話?」という感想しか出てこないガチ密輸エピソードを聞かせてくれた。
中学生にして海外を飛び回り、身体に貴金属を巻きつけて帰国し、空港で見知らぬ男に受け渡す。
それで1回30万ほど稼いでいたらしい。
田中圭「でも中学生ってお金の価値なんかわからないでしょ?だから全部パチンコに使ってた」
私「密輸で逮捕されたの?」
田中圭「いや、見つかっても逮捕されるわけじゃないんだよね。税金払ったらおしまい。逮捕はオレオレ詐欺の方」
逮捕はされたんかい。
田中圭「でも当時まだ16歳だったから、留置場に数ヶ月いれられて釈放。刑務所は入ってないし、高校も4年で卒業したよ」
私「留置場に入れられてる間は休学扱いなの?それで留年したってこと?」
田中圭「いや、留年はしてない」
私「え、高校4年行ってたんだよね?」
田中圭「うん」
私「1年ダブってるじゃん」
田中圭「あれ、高校って普通3年なんだっけ?」
彼らの地元では、高校に4年通うのがデフォルトらしい。
早急に金八先生を派遣した方がよさそうだ。
元ギャングと1時間ほど話して分かったのだが、彼らはある種の純粋な人間、悪く言えばただのアホであった。
犯罪を若気の至りで片付けるべきではないが、根は悪人ではないのだろう。多分。
そうして私たちは、なんやかんや4時間近く滞在し、女性グループとだけLINEを交換して退店した。
元ギャングは、一度もマッチングアプリを使ったことがないと言っていた。
街コンや相席屋に来ることもなければ、私の人生で交わることもないだろう。
あの場でしか会えない人だった。
東京おでんラブストーリー。
それはラブに限らず、数奇なストーリーが夜な夜な生まれる場所。
もう一度行きたいか?と聞かれると。
私は、また行きたいです。