東京の北に、すごい占い師がいる喫茶店があるらしい…
完全予約制だけど、ドリンクとフード1品ずつ頼むだけで、占ってくれるらしい…
そんな噂を聞きつけた10月某日。
いっちょ恋愛運でもみてもらうか。
と思った私は電話で予約を入れ、友人を誘って三ノ輪というマイナーな駅に降り立った。
着くとそこには、ザ・昭和レトロな外観。
中に入ると、おばちゃんが迎え入れてくれた。
奥のソファ席には、白いカッターシャツにピンクのネクタイを締めた色黒の男性が座っている。
「占いは一人ずつだから、先に占う子はあの席へ行ってね」
おばちゃんにそう言われ、私が先に行くことになり奥のソファ席に座った。
色黒の男性と向かい合う。
年齢は60代だろうか。
マスクをせずフェイスシールドだけで、目つきの悪い強面だ。
「手相を見るから、まずアルコール消毒して」
掌に垂らされた消毒液を両手にささっと馴染ませると、占い師は真顔でこう言った。
「何それ。見るのやめるよ?」
え…?
状況が理解できずキョトンとしていると、さらに真顔で続けた。
「今から手を見るって言ってるのに、その消毒の仕方、ふざけてるの?あなたも、そこで待ってる友達も、見るのやめるよ?」
き、キレてるー!!!!!!
こえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!
そんなに言うなら、まずお前がマスクしろよ!!!!!!
そう思いながらも、顔が怖すぎて謝罪以外の選択肢はなかった。
「…すみません」
「何その返事。子供?」
「…」
「気持ち悪いマスクして」
この日、私は黒いマスクをしていた。
もうやだ、帰りたい。
占い自体は無料とはいえ、一応こっちは喫茶店の客だ。こいつはどうかしてる。
「申し訳ありませんでした!!」
体育会系の勢いではっきりと謝罪すると、占い師は機嫌を直した。
「良い返事。やればできるじゃない」
それから生年月日を聞かれ、厄年がどうのこうのという話をサラッとされ、左手の手相を見られた。
「結婚はしてる?」
「いいえ」
「彼氏は?」
「いません」
「でしょうね。結婚線が乱れまくってる」
「…はは」
私が苦笑すると、占い師は再び真顔でキレた。
「何で笑うの?あなたの話をしてるのに」
地雷多すぎワロた。(笑えない)
占い師の言い方は終始、先に私の答えを聞いてから「でしょうね」というスタイルだった。
おい、それなら私にだってできるぞ?
答えを聞く前に当ててこいや、おら。
正直ムカついたが、またキレられるのは勘弁だったので、オーバーリアクション気味の「良い返事」を心がけた。
すると、突然占い師の自分語りが始まった。
元格闘家であること。
毎日筋トレしてること(ここで上腕二頭筋をさわれと言われる)。
息子が店をやっていて行列店であること。
夫婦円満自慢。
奥さんとお互い一目惚れだったから、本気を見せるために最初の2年間は体の関係をもたなかったこと。
これは占いなのだろうか?
占いって、お客さんの話を聞くものじゃないの?え?
怒られたくなかった私は「すごいですね!」と接待モードに徹していたが、占い師の自分語り9割で時間は50分ほど経過していた。
いや長いわ!!!
と言えばウケるであろうタイミングが2カ所あった。
すると、カウンターの奥から、おばちゃんの声がした。
「時間すぎてる!」
ここの占いは何しか人気で、次の予約がパンパンらしい。
占い師はようやく自分語りを終了し、私の話に戻した。
「手相はすごく良い。大殺界のない手相をしていて、これは6、7%しかいない。何してもうまくいくけど、経営だけはダメだね。良い出会いは36か37歳」
「けっこう先ですね」
「でも、子供は42、43歳まで大丈夫。変なのと付き合って別れるよりいいでしょ」
「はい」
「それから、赤かピンクの服を着なさい。黒マスクはやめて白にしなさい」
「わかりました」
「最後に、あなたには守護霊1体と浮遊霊1体がついてるから、除霊します」
突然、儀式的なものが始まり、一瞬で終わった。
「これで悪い霊はいなくなったけど、放っておけばまた憑くから、数珠をつけておきなさい。効果は2~3年で切れるから、定期的に買い替えること。うちでもそこのカウンターで原価で販売してるから、よければ見てって」
お!数珠買わされるパターン!?と思ったが、売り込みはその一言だけで控えめなものだった。
占いが終わりカウンター席に移動すると、事前に注文していた「サービスセット」が出てきた。
バナナジュースとホットドッグ、サラダ、目玉焼きで800円。
味はいたって普通だが、安い。
食べている間、私の友人が奥の席に移動して、占いが始まった。
店内はテレビがついていたが、友人の占いを聞こうと耳をそばだてる。
全く同じ筋肉自慢をされていて、笑いそうになった。
おばちゃん(=占い師の奥さん)はよく喋る人で、ひとりでサービスセットを食べる私にちょこちょこ話しかけてきた。
「宮崎あおいと二階堂ふみの見分けがつかないのよ。あと福士蒼汰と中川大志」
「あはは、わかります」
「あ、やだ、もうこんな時間。ちょっと買い出しに行ってくるから、店番しててくれる?すぐ戻るから」
「はーい…笑」
昨今の都会では味わえないアットホーム感、よきです。
喫茶店としていくならアリだと思う。
だけど占いはおすすめできないな、と思いながらチラリと友人の方を見ると、上腕二頭筋をさわりながら「すごーい!」と接待していた。
巻き込んですまんかったな、やさしき友よ。