名前はマモル(仮)。
黒の短髪、特徴のない顔立ちと無印み溢れる服装で写真に写った彼は、アバターの初期設定と見紛うほどのプレーンな容姿をしていた。
私は思った。
こいつは磨けば光る、原石に違いねぇと。
変にファッションにこだわりがあるより、こういう方が扱いやすくて良いではないか。
メッセージのやり取りは終始堅苦しく、女性に慣れていないことが文章から見てとれたが、そもそも女慣れした男など理科大にはいない。(理科大の人すまん)
それでもマモルは勇気を振り絞ったのであろう。
<喫茶店に行きませんか?僕は白金に住んでいるので、地下鉄で行けるところならどこでも大丈夫です>
とお誘いがあった。
白金というギャップに驚きながらも私は銀座の喫茶店を指定し、店の前で待ち合わせることにした。
当日。
早く着いたのでスマホに目を落としていると、
「海苔子さんですか?」と声がした。
見上げると、白シャツにデニム姿のマモルが立っている。
しかし何かがおかしい。
ロン毛なのである。
「え!髪型…!」
挨拶より早く、失礼な第一声を発してしまった私。
「あ、写真と違っててすみません。髪型変えるのが好きで、このところはずっと伸ばしてるんですよ」
アバターの初期設定だと信じていた彼は、軽めの天パがかかった髪を胸の下あたりまで伸ばし、ゴリゴリに課金を済ませていた。
先に言えや、おい。
自分より背が低い人ムリ!という女性は多く私もそのタイプだが、この瞬間、自分の中に眠っていた新たな価値観を知った。
自分より髪長い人、ムリ。
喫茶店に入ると、マモルは急に緊張を見せた。
私は会話を広げようと努力したが、話すほどに気づいた。
オタク気質のマモルは、守備範囲が恐ろしく狭いのである。
「読書」「音楽」「お笑い」といったジャンルではなく、彼の興味と知識は「特定の人物の特定の作品」にしかないのだ。
悲しくなるほど場は盛り上がらなかったが45分ほど頑張り、もうよかろうと思い喫茶店を出た。
店前で解散したかった私は、マモルにこう告げた。
「じゃあ私は買い物して帰るので、ここで」
「あの…付いていっていいですか?」
なんでだよ。
盛り上がらなかった会を延長して何になるんだよ。
「洋服が見たいので、すみません」
やんわり断り、形式的にLINEを交換して別れた。
シロガネーゼよ。
ロン毛はモテネーゼ。