白金の理科大プログラマー

東京理科大卒、プログラマー、33歳。

名前はマモル(仮)。

 

黒の短髪、特徴のない顔立ちと無印み溢れる服装で写真に写った彼は、アバターの初期設定と見紛うほどのプレーンな容姿をしていた。

 

私は思った。

こいつは磨けば光る、原石に違いねぇと。

変にファッションにこだわりがあるより、こういう方が扱いやすくて良いではないか。

 

メッセージのやり取りは終始堅苦しく、女性に慣れていないことが文章から見てとれたが、そもそも女慣れした男など理科大にはいない。(理科大の人すまん)

 

それでもマモルは勇気を振り絞ったのであろう。

 

<喫茶店に行きませんか?僕は白金に住んでいるので、地下鉄で行けるところならどこでも大丈夫です>

 

とお誘いがあった。

白金というギャップに驚きながらも私は銀座の喫茶店を指定し、店の前で待ち合わせることにした。

 

当日。

 

早く着いたのでスマホに目を落としていると、

「海苔子さんですか?」と声がした。

 

見上げると、白シャツにデニム姿のマモルが立っている。

 

しかし何かがおかしい。

 

ロン毛なのである。

 

「え!髪型…!」

 

挨拶より早く、失礼な第一声を発してしまった私。

 

「あ、写真と違っててすみません。髪型変えるのが好きで、このところはずっと伸ばしてるんですよ」

 

アバターの初期設定だと信じていた彼は、軽めの天パがかかった髪を胸の下あたりまで伸ばし、ゴリゴリに課金を済ませていた。

 

先に言えや、おい。

 

自分より背が低い人ムリ!という女性は多く私もそのタイプだが、この瞬間、自分の中に眠っていた新たな価値観を知った。

 

自分より髪長い人、ムリ。

 

茶店に入ると、マモルは急に緊張を見せた。

私は会話を広げようと努力したが、話すほどに気づいた。

オタク気質のマモルは、守備範囲が恐ろしく狭いのである。

「読書」「音楽」「お笑い」といったジャンルではなく、彼の興味と知識は「特定の人物の特定の作品」にしかないのだ。

 

悲しくなるほど場は盛り上がらなかったが45分ほど頑張り、もうよかろうと思い喫茶店を出た。

店前で解散したかった私は、マモルにこう告げた。

 

「じゃあ私は買い物して帰るので、ここで」

 

「あの…付いていっていいですか?」

 

なんでだよ。

盛り上がらなかった会を延長して何になるんだよ。

 

「洋服が見たいので、すみません」

 

やんわり断り、形式的にLINEを交換して別れた。

 

シロガネーゼよ。

ロン毛はモテネーゼ。