出版社の雑誌編集者、立教大学卒、28歳。
写真が古いのか大学生のような若すぎる印象が拭えず、プロフィールにもさして面白みはなかった。
しかし私は、同業者を見つけると勤務先が気になってしまう。
チャットでそこそこ盛り上がった私たちは「名刺交換しよ」と約束をして、喫茶店で会うことになった。
<先に着いて座ってます。入り口から見て左奥の席で、紺のアウター着てます>
約束の10分前にメッセージが届く。
定刻に着いた私は彼と思しき人を見つけると、向かいの席に座った。
「あ、どうも、初めまして」
彼がマスクを外した瞬間、私は思わず顔を二度見して脳内で叫んだ。
(なぁーーーー!!イケメンすぎるー!!!!!!)
写真よりはるかに大人びた顔面は、ほとんど福士蒼汰だった。
「初めまして、海苔子です(※冷静を装う)」
約束通り名刺交換をすると、福士君は老舗の出版社で、お堅い経済誌の編集を担当していた。
経済誌には全く縁のない私ではあったが、編集者同士それなりに通じ合うものがあり、会話は弾んだ。
「僕、別居婚がしたいんですよ」
恋愛の話をし始めた途端、福士君はそう切り出して続けた。
「彼女ができるとわりと長続きするんですけど、2~3年経つと向こうから『同棲したい』って言われては別れる繰り返しで。家に帰って人がいるのが、あんま好きじゃなくて」
お、おぅ…そういうタイプね。
「わかる。私も一人暮らし長すぎて他人と生活するのが怖いし、壇蜜の結婚スタイルには憧れる。でもまあ、現実的じゃないよね。お金かかるし、子供産まれたらどうすんの?って感じだし」
この瞬間、福士君の目の色が変わった。
あ、私いま、気に入られたかも知れない。
「共感してもらえるとは思いませんでした。僕は子育てはしたくて、養子でもいいけどできれば自分の子供がよくて、だから―」
だから…?
「極論、自分で産みたい」
やべぇ、クレイジーだこいつ。
「はは、村田沙耶香みたいな世界観だね」
私は苦笑いしながらも、美女選び放題であるはずの目の前の男が、顔を出さない自分に興味をもった理由が少し分かったような気がした。
2時間ほど話し込み、喫茶店が閉店しそうな空気が流れ始めた頃、福士君が尋ねた。
「…海苔子さんって、彼氏いますか?」
「いたらTinderなんかやらないよ」
「じゃあ今度、代々木で飲みましょう」
代々木とは、福士君が住む街だ。
自分が住む街に女を呼び寄せるゲスな男が私は心底嫌いである。
2件目で宅飲みに誘う流れ。
見え透いた「ラクしたい」気持ち。
にも関わらず、美しきクレイジー福士蒼汰を前に、私は牛角のオープニングスタッフばりのテンションで
「はい喜んで!」
と口走っていた。
その日の夜、福士君からLINEが届いた。
<今日はありがとうございました!来週の金曜日20時~空いてますか?この日なら校了後で絶対遅れないので、飲みたいです>
そうして翌週、私たちは代々木で再会した。
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