結論、Dineは私に向いていなかった。
サシ飲みを前提としたDineでは、いいねのハードルが高い。
Tinderのように「なんか面白そう」程度でいいねを送るわけにもいかず、相手が2時間のサシ飲みに耐えうるかどうかを、細かいプロフィールを読んで判断することに疲れてしまった。
しかし前回の社長↓に救われた私は
もう一人くらい会ってみるかという気持ちになり、最後に会った弁護士の話。
弁護士(独立済)、41歳、慶應卒、年収2000~3000万、バツイチ、身長180cm。
高学歴、高収入、高身長、おまけにオシャレで顔も良く、「いやこんな人バツついてない方が怖ぇ」と思うような方だった。
待ち合わせは平日の夜、恵比寿の海鮮バル。
少しだけ遅れて現れた彼は、ヨウジヤマモトと思しき個性的なシルエットの服を着こなしていた。ヨウジはメニューを見ながらワインについて店員にあれこれと質問をし始めたが、私にはその内容がほぼ理解できない。
私は、この人と釣り合うのだろうか?
わずかに緊張が走った。
しかし飲み物が運ばれてきて話し始めると、ヨウジは思いのほか気さくで、私の仕事や趣味についてあれこれと質問してくれた。
生い立ちに共通点があったこともありそれなりに盛り上がったのだが、途中、私はあることに気づいた。
ヨウジ、全然笑わねぇ。
ワイングラスを傾ける横顔は美しくとても41歳には見えなかったが、社会人としてあるべき愛嬌が欠落していた。
目の前のサイコパス弁護士をどうにか笑わせたいという謎の衝動に駆られた私は、テッパンのエピソードトークを披露するという賭けに出た。
結果、私はデート史上最大にスベッた。
もういい。諦めよう。
ヨウジはきっと、イロモネアの最後まで笑わない客と同じだ。
諦めた私は現代アートの話題に切り替えたが、それはそれである種の盛り上がりを見せ、結局私たちは4時間もそこで飲んでいた。
そろそろお開きかな、という空気が流れ始めたその時、向かいに座るヨウジの後ろの壁を、何かが横切るのが見えた。
灰色のネズミだ。
飲食店としてあるまじき光景ではあるが、私はオシャレな街のオシャレな店にネズミがいることに驚き、不思議な感動を覚えた。
ヨウジが会計を済ませてくれてLINEを交換し、店を出ると、あらためて私の全身を見たヨウジが尋ねた。
「そのワンピースのデザインいいね。XXXXXXとか?」
ファッションチェック、キタ━(゚∀゚)━!
ブランド名と思しき横文字が聞き取れなかった私の脳内を、懐かしい顔文字が高速で駆け抜ける。
「いえ、ZARAです!」
「え!意外。見えないね」
少しだけ、勝ったような気持ちになった。
「靴も気になる。ハイブランドっぽいけど、どこの?」
終電間際に始まった、サイコパス弁護士のファッションチェック。
「全然ブランドじゃないですよ。個人経営の店で買って、たしか8千円くらい」
正直に話すごとに、目を丸くするヨウジ。
「買い物うまいんですよ、私」
その日は1月上旬、年が明けて間もない頃だった。
私はニコッと微笑み、多分もうこの人と会うことはないのだろうと思いながら最後に小さくボケた。
「今日はご馳走様でした。今年イチ、楽しかったです!」
さあ、ツッコみたまえ。
「いえいえ。僕も楽しかったです(真顔)」
失意の中、私は地下鉄に乗り込んだ。
サイコパス弁護士を笑わせようと奮闘した私はきっと、恵比寿のドブネズミみたいに美しかったはずだ。